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…….とまあ、長々と近況を語ったけど、つまり私は現在"丸井ブン太の凄く仲の良い幼馴染でちょっと勉強のできる人"程度の存在であって。
このままいけば、いつかはブンちゃんのファンとかに疎まれるんだろうなー、呼び出しとか受けるのかなーとかは思ってたわけですよ。
それで、何が言いたいのかっていうと、
「貴方が春名葵?」
まさか、小学5年生の時点でそうなるとは思ってなかったってことなんだよね。
時は昼休み。場所は屋上へ続く階段の踊り場。屋上への扉は鍵がかかっていて開かないし、人は滅多に来ない。その上、下の廊下を歩いている人からは死角になるという、ちょっとやんちゃしたいお年頃の男の子がたまにたむろして怒られる場所だ。
相手は同級生らしきの女の子1人だけ。さっき、同じクラスの子に「先生に頼まれ事したのを手伝って」と可愛く言われて素直について行ったらこのざまだ。早く気づけよ自分。その子はただ私を連れて来ることだけが任務だったらしく、小さく「ごめんね」と言ってこの場から去って行った。
「そうだけど。何か?」
「ブン太くんの幼馴染っていうからどれだけ可愛いのかと思ったけど、普通じゃん!」
アハハッと明らかに蔑みを含んだ笑い声を上げるの女の子。ここ、死角だけど別に防音じゃ無いし、そんなに大声で笑ったらいくら昼休みで騒がしくても聞こえちゃうよ。呼び出しという陰湿なことをしている割に、ちょっと抜けているのが小学生だなあと、悪口を言われているのに妙に和んでしまう。
「何?微笑んで余裕ぶってるつもり?これだったら私の方が可愛いのに。何でブン太くん私をえらばないかなー」
小学生でお付き合いは早くないですか?とかおばさんくさい思考はこの際置いといて。何処かで見た顔だなーと思っていたらそうか、この子
「ブンちゃんに告白した転入生さんか」
思わず呟いてしまった言葉が聞こえたらしく、凄い睨まれた。自分に自信があるのも頷けるくらい美人さんなだけに迫力がすごい。
「あー……。何で私を呼び出したの?」
「別に。あんたの顔を見たかっただけ。ブン太くんに振られたら、クラスの子達が皆そろって『ブン太には葵ちゃんがいるから』っていうからどんな子かと思えば……」
俯いて拳を震わせている彼女。ブンちゃんにお似合いの美少女じゃなくてごめんなさいね。
「まあ、いいや。全然心配する必要なかったみたいだし」
絶対ブン太くんと付き合ってやるんだから。そう言って、彼女は階段を降りて行った。
ーなんだ。
少女漫画的にはもう少し、「ブン太くんに近づくな!」とか言われるのかと思っていただけに拍子抜けだ。
「おわっ!?」
何にせよ、何もないに越したことはないと階段を降りると、聞き耳を立てるような形で立っている1人の少年がいた。正直凄くびびった。
「あ、いや。悪い。なんか、声聞こえて揉めてんのかなって……思って」
だんだん声が小さくなっているが、要するに私を心配してくれたということだろう。やっぱり、あの子が大声で笑うから。それよりも、この少年はもう1人の転入生の
「ジャッカル桑原くん……だっけ?」
「お、おう。あんたは春名葵だろ?ブン太から聞いてる」
やっぱり彼だったらしい。というか、もうブンちゃんと仲良くなったのか。さすが、将来ダブルスを組むことだけはある。
「私も。新しく友達が出来たって、嬉しそうだったよ」
そう伝えると、ジャッカルくんは照れ臭そうに笑った。この滲み出る良い人オーラ。ブンちゃんにあまり苦労をかけないよう今から言っとこうかな。
「ていうか、大丈夫だったのか?なんか揉めてたんじゃ」
……せっかく流せたと思ったのに、やはり気になるらしい。
大丈夫大丈夫。と笑顔で答えると、微妙な顔で納得してくれた。
「あ、でも、ブンちゃんにはこのこと内緒でお願いします」
分かった。と素直に引き受けてくれたジャッカルくんは、本当に良い人だ。
今思えば、このときちゃんと対応していたら何かが変わっていたのかな。
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