「……なんで俺は生きてんだ?」

青い空、白い雲、見慣れた風景。
感じる自身の鼓動に、一角は呆ける。

「目が覚めた?」

その声に顔を向ければ、そこにはユキの姿があった。

「お前、どうしてここに……。あッ!くそっ、てめえだな生かしやがったのは!っつーか旅禍の野郎やどうした!」
「起きて早々うるさいな。傷開くよ」

傷口に施された血止め薬に気がつくと、途端にギャンギャン騒ぎ出す一角。
それに対し、鬱陶しそうに耳を塞ぎながらユキは顔をしかめた。

「くそっ……!おかしいと思ったんだ!!あの出血で死んでねえなんだ!!それが助けられて永らえるなんざ、とんだ恥さらしだぜ……!」
「うるさいなあ。助かってラッキー、ツイてんでしょうが」
「痛ってえ!!!」

悪態をつく一角に近づくと、ユキはその頭を叩く。
ぺちん、と良い音が鳴ったのと比例して、一角も大声で痛みを叫んだ。

「なにしやがる!」
「うるさい!」
「痛ェ!」

三度目のうるさいと同時に、手のひらが一角の顔に落ちる。
ばちん、と良い音が鳴ったのと比例して、今度も一角は大声で痛みを叫ぶ。

「てめえ……」
「あんたと私で、十一番隊三席でしょうが」

怒りを込めて呟けば、対照的に静かな声が降りてくる。

「いなくなられたら、困る。たぶん、ちょっと、寂しくなる」
「……」

呆けていると、手がどけられて視界が自由になる。
一角の目に映ったのは、少し寂しそうに視線を逸らしたユキの顔。

「これでも、あんたには恩とかそういうの、感じてるんだから。弓親にもだけど。……だから、死なれたら割と困る」
「……お、おう」

思わず、一角は素直に返事をする。
同時に少し、気恥ずかしくなった。

(これだからテメーは……)

気が強くて、どこか強引で、一人で勝手に決めて突き進んで。
そのくせ、時折ちらりとこうして弱いところを見せる。

(てめえのそういうのに、俺は弱ェんだよ)

そう思いながら、ユキ、と呼びかけようとしたその時だった。

「そういや一角、あんた歩ける?」
「は?」
「は、じゃなくて。歩けるのか、って」

聞かれて一角は、まずは起き上がろうと試みる。
――が。既に止血したとは言え、それ以前に血を失った影響か、体にうまく力が入らない。

「無理だなこりゃ」
「そう。じゃあ、おんぶと抱っこ……ぷふっ」
「おいてめえ、何笑ってんだ」
「おんぶと(笑)抱っこ(笑)どっちがいいですか(笑)斑目三席(笑)」

端々に笑いを差し込みながら、心底面白くてしょうがないといった様子でユキは告げる。
さっきの気持ちを返せと言いたくなりながら、笑うんじゃねえよ、と一角は口を開く。

「肩と手貸せ。そんだけで十分だ馬鹿」
「いいよ、無理しなくても。冗談だって。その辺の隊士呼んでくるから、ちょっと大人しくしてなよ」

結局その後、呼ばれた隊士達に担がれながら、一角は救護詰所へ運ばれた。
十一番隊の上位席官が二人もやられたというのは、瞬く間に死神達の間に広まって動揺を生んだ。
一方でやられた本人達やユキはある種ノンキなもので、うまく自分たちを退けた彼らがさてどこまでやれるものかと、ひとたび落ち着けばそちらへ思いを馳せていた。

***

「それにしても、弓親までやられるとはね。もう一人の方、大した霊圧もなかったから弓親圧勝だと思ってたんだけど」
「って、なんでてめえは俺の病室で茶啜ってんだよ」
「色々と報告することがあるの」
「ホウ、ではその報告をきかせてもらおうじゃないかネ」

突如として割り入った言葉に、ユキと一角は揃って眉をひそめた。
声の方を見れば、病室の入口に立っていたのは十二番隊隊長・涅マユリと、その副官・涅ネム。
椅子に腰掛けていたユキは立ち上がると、二人に一礼する。

「ああ、挨拶などいらんヨ。それより、早く報告をくれないか。旅禍に関する報告をネ」
「申し訳ありませんが、それは出来ません」
「同じく、出来ません」
「ハ?」

二人の返答に、マユリは疑問の声を返した。

「私の聞き違いかネェ?今、『出来ません』と聞こえた気がしたんだが……」
「聞き間違いではありません、涅隊長。私も斑目三席も、お伝えすることは何もありません」
「馬鹿を言うんじゃないヨ」

ピクリとこめかみを動かしたマユリは、そう言うとユキ達を睨みつけた。
明らかに気分を害した様子で、マユリは続ける。

「君たちは、いや、少なくとも穂村君。君はさっき確かにこう言っていた。『色々と報告することがある』とネ。その『色々』を報告すればいいんだヨ」
「残念ですが、私の報告は全て斑目三席の怪我や生還理由等に関することです。ですので涅隊長のご期待に沿うこと、つまり旅禍に関する報告は出来ません」
「俺も、涅隊長に報告出来ることはなにもありません」

その瞬間、室内に轟音が鳴り響いた。
どこから爆発物を取り出したのかはわからないが、見れば壁に風穴が空いている。

「……クク……どうしても吐く気にはならんかネ……?エ?穂村君、斑目君!!」

その騒ぎを聞きつけて、看護婦が部屋に駆け込んだ。
注意をする彼女へもその爆発物は威嚇のごとく投げられ、顔のすぐ横の柱に風穴が空く。
好き放題のマユリを副官である涅ネムがたしなめるが、逆にたしなめ返されてしまった。
隊長と副官である以前に、ネムはマユリに逆らうことはできない。

そんな様子を見て、ユキと一角は目を細める。
と、一角が口を開いた。

「……吐かないも何も……俺は知らないんですよ、旅禍の目的も、行き先も、何も」
「……じゃあ何かネ?キミはなんの情報も得られぬまま、ただただやられて帰ってきたというわけかネ?」

その通りです、と平然と返して一角は続ける。

「ついでに言うと、俺は敵の顔も見てないし、声も聞いてません。だからあなたにお伝えできることは、これっぽっちもありません」

――明白な嘘。
それはマユリの神経を、大きく逆撫でした。

「……良かろう!ならば失態に相応の罰を受けてもらおうじゃないかネ!!」

頭に血をのぼらせたマユリはそう叫ぶと、高く手を振り上げる。
しかしユキが刀を抜くより早く、その手を更木が掴んだ。

「……驚いたな。てめえはいつの間に、他隊の奴を裁けるほど偉くなったんだ?」

睨みつければ、流石のマユリも怯んだ。
立場的な力の上では互角でも、純粋な力の上で自分が更木に劣ることをマユリは理解している。
色々と準備をしていれば話は変わってくるが、しかし今この場においてはそんなことをしてきているはずもない。
渋々諦めると、ネムを引き連れて救護所を後にした。

「一応隊長格だ。手ェ出すのは止めとけ、ユキ」

言われてユキはようやく、抜きかけた刀を鞘に収めた。
更木はそれを見届けると、一角に向き直る。

隊長、と一角が呼びかける。
と、更木のその背後からピンク色の小さな頭が飛び出した。

「だいじょうぶ!?心配したよ、つるりん!!」
「そのアダ名はやめろっつッたろドチビ」

――出てきたのは、十一番隊副隊長・草鹿やちる。
普段通りのやり取りを二人が終えると、更木が口を開いた。

「……聞いたぜ。負けたんだってな」
「……申し訳ありません。敗けて永らえることは恥と知りつつ、戻って参りました」
「一角に死なれると色々困るので、私が応急処置を行い、永らえてもらいました」

二人の言葉に更木は「そうか」とだけ返すと、それで、と続けた。
どうやら、更木にとって一角の敗北やその生き死にはどうでもいいことのようだ。

「強えのか」
「強いです」

更木の問いに、はっきりと答えたのは一角だった。
期待を含みながらも飢えた獣のように鋭い目を見据えて、一角は続ける。

「外見は、オレンジの髪に身の丈ほどの大刀」
「向かった先は、懺罪宮四深牢。私が場所を教えましたので、誰かの妨害に合っていなければまっすぐ向かっている筈です。そうですね、今の状態だとあの近くの第三階段辺りは確実に通るのではないかと」
「おまっ、俺が寝てる間にンなことしてたのかよ!」

一角の言葉に続いた、ユキの言葉。
初めて聞くその情報に、一角は驚いて声を上げた。
しかしユキは取り合わず、一角からあからさまに顔を背けてみせる。

「……例の極囚か」
「はい。隊長の名と人相を伝えて、気をつけるように言っておきました」
「……隊長。奴は強く、そして恐らくあの強さは未だ発展途上。隊長と遭う頃には、更に強くなっているかもしれません」

ユキの言葉に続けて一角がそう言うと、そうか、と嬉しそうに更木は笑みを浮かべた。



「……おい、ユキ」

一角がその背に呼びかけたのは、更木が部屋を後にし、その霊圧が遠くへ及んだ時だった。
なに、と振り向いたユキへ一角は口を開く。

「お前、どういうつもりだ?隊長に譲るだけなら、道なんか教えなくていいハズだぜ」
「忘れたの?隊長、霊圧探査はからっきしなんだから、ある程度相手の行動範囲狭めておかないとでしょ」
「それだけか?」

一角の鋭い視線を受け止めて、ユキは僅かに目を細める。

「……本当に、それだけか?」

ふい、とユキは視線を逸らす。
そして「それだけに決まってるでしょ」と、逃れるような音でそう告げた。

***

「……そう、恋次が」

戦時特例の報が飛んだのは、その日の夜だった。
同時に、詳細な報告を伝えに来た三番隊副隊長・吉良イヅルを前に、ユキは目を伏せる。

「大変だったんだよ、本当に。命に別状は無いらしいけど、一時はどうなることかと。他の隊長が反対してくれたから無くなったらしいけど、朽木隊長は阿散井君の罷免を唱えたそうだし、そうでなくとも『治療の必要は無い、牢に入れておけ』って……。僕のところの隊長がいなきゃ、上級救護も受けられないところだったんだ」
「そう。本当に、大変だったんだね」
「あの時は隊長本人の前だったから、咎める雛森くんを止めもしたけど……正直、僕もひどいと思ったよ。阿散井君は一人で旅禍と戦ったんだ。それなのに、あんな冷たいこと言うなんて……」

そこまで言って、ふと吉良はユキが自分から目をそらして、どこかぼんやりとしているのに気づいた。
しかし「聞いてるかい、穂村君」と言おうとして、口を閉じる。

自身に被害が無いとは言え、ユキだって今日は大変だったのだ。
身近な席官が二人共やられ、親しくしていた恋次もやられ、おまけに憧れの元同隊の上司は素っ気ない様子。
きっと心が追いつかないのだろうと察して、同時に少し言いすぎた自分にも気づいて、吉良は反省するように少しうつむく。

「……とにかく、阿散井君を倒したくらいの強敵だ。君自身も、いつ出会うかわからない。気をつけなよ、穂村君」
「うん。イヅルも、気をつけなね」

それじゃあ、と部屋の前でユキは吉良を見送る。
その姿が、霊圧が、遠くに行くのを確認してから、ユキは自身の部屋を後にした。



気配を消し、霊圧を隠して、夜の闇の中を走る。
物音を立てないように気をつけながら、霊圧を探りながら、ユキは進んでいく。
暫くして、目当ての霊圧――一護の霊圧、その場所を特定した。

「地下、か……そういえば、山田七席が一緒にいるんだっけ」

なるほど、水路は自由自在だ。とユキは感心する。
そうして地下水路に続く床石を開けると、自身も地下へと潜り込んだ。

対象物の場所さえわかれば、構造不明な迷宮もある程度簡単に進めたりする。
途中で、「そう言えば懺罪宮に向かってるんだから、そこに近いとこから入ればもっと早く合流できたんじゃ」と思い出したユキだが、悲しくなるので「いや、どっちもそう変わらないか」という答えを無理やり出しておいた。

そうこうしているうちに、人影が見えた。
小部屋の入口で、男が眠っている。

(弓親と戦った方か。流石に、こっちも結構重傷ね……)

そんな風に思いながらも、ユキのその視線がふと、男の袴の模様をみとめた。
途端、ユキは顔をしかめる。

男の袴について模様。
それは紛れもなく、墜天の崩れ渦潮。

(……この男、まさか志波の……!)

下唇を、小さく噛む。
だとしたら、この男はルキアのことを知っていて助けにきているのだろうか。
それとも。

とにかく、とユキは一先ずその思考を頭の隅に押しやる。
今は、一護の容態を確かめるのが先だ。
眠っている男を起こさないように気を遣いながらそっと入口から顔を出せば、中で治療を受けているらしい一護がその存在に気づいた。

「あれ。えーっと……ユキ?だっけ」
「正解。思ってたより、元気そうだね。安心した」

そう交わすと、同じく治療を施していた四番隊七席・山田花太郎が気づいて振り返る。
途端、その顔がサーッと青くなっていった。

「あ、あああ、あなたは、穂村三席……!」
「あ?どうしたよ、花太郎」
「どうしたよ、じゃないですよ一護さん!この方は十一番隊三席の穂村三席!剣術も体術も鬼道も全てに長け、戦闘集団の十一番隊で副官を除く唯一の女性席官!強くて頭良くて、ととと、とにかくすごい人なんです……!!!」

ひどく慌てて、花太郎は一護にユキの説明をしてみせる。
対して一護は、当然ながら「へえ、そうなんだ」と平然としていた。

「でも三席ってことはアレだろ?恋次より下じゃん」
「地位が下だから弱いだなんて思わないで。鬼道だけなら、私確実に恋次に勝つし」
「へー。色々あるんだな」
「へー、じゃないですよ一護さん!なに呑気におしゃべりしてるんですか、逃げないと……!」
「ああ、いや。良いんだよ、花太郎。こいつ、俺たちに協力してくれるって言ってるから」

一護がそう告げると、「へ?」と花太郎は大きく間の抜けた声をあげた。
事態がよく飲み込めていない花太郎に、一護は大きく端折られた事の次第を説明する。
すると呆けた様子で、花太郎はユキの方を見た。

「あ、あの……本当に、ルキアさんを救う手助けを……」
「ええ。よろしくね、山田七席」

そう言って笑いかけると、花太郎は安心したようにようやく微笑みを見せた。
少し目を潤ませながら、はあ、と落ち着いた様子で息をつく。

「よ、良かったです。僕、ルキアさんから穂村三席の話も聞いてて、それで……。ルキアさん、言ってたんです。朽木隊長がいるから、穂村三席は余計に辛いだろうって――」
「ちょちょ、ちょっと待って」

止めるユキに、はい、と花太郎。
しかしその横から一護が顔をつっこみ、「なんかあんのか」と尋ねれば、きょとんとした顔で花太郎は続ける。

「え?えっと……たしか、穂村三席は朽木隊長のことを心から慕っていらっしゃるから、自分が死ねば自分の死と隊長としての責務を果たした朽木隊長の間で心が板挟みになって辛いだろう、ってムグッ!!!」

制止をきかない花太郎に対して、ユキは実力行使に出た。
しかし、花太郎の口を無理やりふさいだもののもう遅い。
目の前では、一護がちょっと面白そうな顔をしている。

「ほうほう、成程?お前、ああいうのが好みなのか、そうかそうか」

完全に気づいてしまった様子で、にやにやしている一護。
それを目の前に、ユキは俯いて視線をあちらこちらへうつす。

「いや、別に、だから、その……」

表情もぎこちなく、顔は赤い。
伝え聞く噂や経歴、これまでのやりとりからイメージしていた冷静でエリートな彼女とは全く違ったその姿に、口封じから逃れた花太郎も加わって、二人は俄然勢いづく。

「いいんですよ、穂村三席。無理しなくても」
「そうそう。しかしお前、案外可愛いとこあるな!」
「……わかった、上に場所知らせる」
「ば、馬鹿、それはやめろ!」

顔を真っ赤にしながらも、手に何かしら鬼道の光を携えながら言うそれは鬼気迫るものがあった。
慌ててどうどうと抑え、悪かったと二人で謝れば、ユキの方もなんとか気持ちを押さえ込み、ケホンと咳払いする。

「……と、とにかく。私に出来る限りのことはやらせてもらうから。その、よろしく」

それから花太郎は一護の残りの治療を済ませ、その後眠っている岩鷲にも治療を施した。
ユキも手伝うと申し出たが、もしもの時のために疲れていてもらっては困ると丁重に断られ、仕方なく花太郎にすべてを任せた。
その間に、ユキと一護は進行ルートを確認し、救出手順を確認する。

岩鷲が目覚めたのは、地下水路の外で陽が昇ったころだった。

「あァっ!俺の一張羅がヨダレでズルズルじゃねーかこの野郎!!」
「疲れきってんだ。ヨダレぐらい勘弁してやれよ」

起きて早々、騒ぐ岩鷲に声をかければ、振り向いた岩鷲は全快状態の一護に驚く。
そして。

「あ?なんだ、その女」

一護の横ですっかり最初から仲間だったかのような顔をしているユキを見て、顔をしかめた。
そんな岩鷲へ再び事の次第を説明してから、一行は懺罪宮へと足を向けるのだった。

***

「オッケー、大丈夫。こっちだよ」
「おう」

地下水路を出ると、ユキを先頭に一行は懺罪宮へ急ぐ。

「おい、あの死神本当に信用出来んのか?」
「正直わかんねえ。けど助けたい、手伝うってんなら、信用するし手伝ってもらうさ」
「大丈夫ですよ。穂村三席は十一番隊ですけど、誠実で優しい方です。僕ら四番隊の間でも、評判良いんですよ」

背後で交わされる会話は、声を潜めていたがしっかりとユキにも届いていた。
それを聞きながらそっと、ユキは目を細める。

そのうち、階段に差し掛かった。

――霊圧の主は、先にいる。
三人の霊圧感知はユキよりは鈍いようで、まだ気づいていない様子だったが、とうの昔にユキは気づいていた。
否、気づいていたからこそ、この道を選んだ。

「くッ…くそ……!何段あんだこの階段!」
「文句言わない!あとちょっとだから、ほら頑張る!」

あと三段。

二段。

一段。

「よっしゃ、ついたァ!」
「よし、このままイッキに奥まで――」

その瞬間。

のしかかるような重い霊圧が、四人を襲った。
その異常な霊圧に動揺する中ただ一人、ユキだけは涼しい顔をしている。

「なッ……なんなんだよ、この……デタラメな霊圧は……!?」
「走るぞ!!わかんねえけど、とんでもねえ奴が近くにいることだけは確かだ!!」

それは、この中ではユキ一人が知り、何度も肌に感じてきた霊圧。
ずっと喉元に刃を突きつけられているようなこの霊圧を、かつてユキは毎日のように真正面から受けてきた。

その霊圧の持ち主は――

「黒崎一護だな?」

現れたのは、隊長羽織を羽織った異様な風貌の男。
胸元に刃を突き立てられたような殺気を感じた一護は、脂汗を浮かべて振り返る。

「……なんで、俺の名前……てめえ、一体……」
「なんだ。おいユキ、お前教えたんじゃなかったのか」

男が、ユキにそう投げかける。
自然と、周囲の視線がユキに集まった。

「教えましたよ、ちゃんと」

そうユキが涼しい声で答えれば、一護の脳裏に蘇るのはあの時のユキの言葉。

『会えばわかるよ名前は――』

そう、名前は。

「十一番隊隊長、更木剣八だ。てめえと、殺し合いに来た」




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