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「ホントナナシが男なんてびっくりよー」

どこか疲れた顔でナミが呟きロビンは楽しそうにクスクスと笑ってる、そんな二人に挟まれる様に座る俺はズズッと紅茶を啜った。うん、おいしい。
ひと波乱あった食事の後、各自解散となり二人に誘われて俺は測量室に一緒に上がった。

「俺もロビンに気づかれててびっくりです」

どうして気づいたのか聞いてみてもロビンはただ笑うだけで教えてくれない。どこかおかしな所があるのか姿見で確認してもいつもと変わりはないし、ロビン以外は誰も気づかなかったし。謎だ。


「じゃあ、ロビンが言ってた話は俺を助けてくれる為の嘘だったの?」

ロビンによると女に見えるけど実は男で、でも女の格好してる俺が面白そうに見えたからあの場で話を出してくれたそうだ。あなたが神か!と俺が心ん中で崇めていた時にロビンは内心楽しんでいたという事で…なんか複雑。

「いいえ、嘘ではないわ。事実、貴方の様に不思議な知識を持っていたり見た事もない道具を手にする異世界の人間に会ったと証言する人達がいるそうよ。」

「文献を貸しましょうか?」と辞書みたいな分厚い本を見せられたけれど、とても俺には読めそうにないので気持ちだけありがたく頂いた。

俺は頭をひねりながら異世界、つまり現代について二人にいろいろ話した。半信半疑だったナミも聞いてくれる内に驚きながらも信じてくれた様だった。

「そっかぁ…、じゃあ俺みたいな人達がその後どうなったのかまでは知らない?」

俺の様にトリップしてきた人間がいる事に少なからず安堵してその先を尋ねる。元いた世界に帰れたのかそれとも…。怖くないと言えば嘘になる、理由も分からず漫画の世界に落とされた挙句最悪の結果なら俺は情けなくても大泣きし、あの世で対面する神様にエルボーをぶち込んでやると決めている。

しかし、ロビンは少し申し訳なさそうな顔で「そこまでは知らないの、ごめんなさい」と首を横に振った。


「島に着いたら話を集めてみてはどうかしら?貴方の様な人はいろんな場所に現れているそうだから、何か見つかるかも知れないわ。」

残念な気持ちが表情に出てしまったらしくロビンは俺を気遣い励ましてくれる。ロビンまじいい人。そうだよな、諦めたらそこで試合終了って言うし!べきっと折れかけた心を何とか立ち直らせて、帰る方法を探す決意をする。
そんな俺を見ていたナミはグイっと俺の方へ身を乗り出し好奇心を全面に出して口を開いた。

「ねぇ、どうしてナナシは女装してるの?」

ナミからの質問は至極当然なものだった。俺が男と知った人は皆同じ事を聞くので俺もあっさりと舌に慣れた言葉で答えた。

「好きだから。」



地味で暗くて臆病な自分が嫌いだった。誰も俺を見てくれなかった。
でも化粧して綺麗な服を着て堂々と歩くと皆が俺を見てくれた、似合ってるねって声をかけてくれた。女装すれば自信がついて嫌いな俺を消す事だって出来た。
俺を変だって言う奴もいた、おかしいって言われた事もあった。
周りが言う様に俺はおかしいのかも知れない
それでも俺は
女装をやめたら元の自分に戻る気がして怖かった。





ナミにヘラリと笑って言葉を続けた。

「最初は興味本位で始めたらこれがまた凄く楽しくなちゃって、好きだから今も女装してるんだ」

俺の言葉に、「ただの趣味なのね…」と呆れたと言わんばかりに脱力するナミ
俺は楽しく笑い返しては少し冷めてしまった紅茶を飲んだ。

「もう!てっきり重大な秘密があるんじゃないかって考えたあたしがバカだったわ。」

「深い理由なんて無い無い。、俺の女装もそんなに悪くはないだろ?男とか女とか関係なく俺は似合う服を着たいんだ」

「ふーん…じゃあ、男を好きって訳でもないのね」


さらりと言われた言葉に驚いて思わず手に持ったカップを落としそうになった、危ねぇ…セーフ!

「俺は女の子が大好きな健全な男です。」

男と言われて過去に俺へ近づいて来た男達を思い出す。あんなろくでもない奴らなんかありえない!世界がひっくり返ろうが俺が男となんて絶対無い!!

「そう、よかったわ。ナナシをどっちの部屋で寝かせるか悩んでたのよね」

「俺は男部屋でいいよ、女部屋に入るのは流石に…」

「あら、私は別にナナシだったらいいわよ?不純そうじゃないし」

悪戯っぽく笑って言うナミに「私も構わないわ」とロビンまで賛同する。
二人の美女と同じ部屋で…男なら夢みたいな展開だけど俺にはとてもじゃないがハードルが高そうで、そこは丁重にお断りする。俺も命は惜しいです。

そんなこんなと3人での会話を楽しみカップに口を付けるがもう飲み干してしまったらしく中身は空でツルリとした陶器の肌が見えた。そして思い出すのはタバコを加えたサンジの顔。


夜の歓談にとわざわざ紅茶を運んで来てくれたサンジは俺を見ると複雑そうな顔をして出ていった。むしろ嫌そうな顔かな?

あんなに優しく(女と勘違いしてたけど)してくれたのに急に冷たくされるのは流石に俺も傷つく。まぁ、握りしめられた時とか引いたけど。
明日明後日で別れる間柄ならいざ知らず、同じ船でまだこれから先何度も顔を合わせるならわだかまりは無くしておきたい。サンジとも俺は友達みたいになりたいし。

「俺、サンジとちゃんと話してくる」

「そうね、その方がいいわ」

「サンジ君が一番ダメージ受けていたしね」


立ち上がってはいってらっしゃいと見送ってくれる二人の声に背を押されニッと笑って俺は紅茶の甘い香りがする測量室をあとにした。




ストロベリー・ラウンジ
(蹴られたらどうしよ…)

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