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片手いっぱいに抱えていたらしい同じフルーツが足元にバラバラと散らばっていく。
気づけば目の前のもこもこした生き物が次の行動に移る前に逃げ出していた。少し重たいロングブーツが走行用に向いている筈もなく何度も砂に足を取られて転びそうになりながらも気合で走った。絡みつくスカートがめくれるのも構わず走った。
逃げ込んだ林の中は見た事ない植物ばっかりだけど今は気にしてられない。巨木に背を預け浅く繰り返す息を整え様と深呼吸し、ゆっくりと落ち着きを取り戻すとようやくまともに考えられた。
ここは俺が願ったとき愛ゲームの世界なんじゃないの?あんなのゲームに出てこないし!というよりなんで女の子より先に見た事あるタヌキ……じゃなくてトナカイと出会ってんの?

頭を働かせてもこればかりは分からず、黒い格好のせいで熱が篭もり酷く暑く感じてじんわり滲む汗が不快で堪らない。大きなため息を吐いた途端バサバサと頭上高くを飛び立っていく大きな鳥にびっくりして肩が揺れた。あーもう、俺何やってんだろ。

頭を悩ませて真剣に考えるのも段々馬鹿らしく思えてきた。
夢って深層心理とかって言うし俺の心の隅っこ辺りでふわもこなトナカイ君に触りたいとかなんとか思ってたのかもしれない。
うん、もうそれでいい。
雑に結論つけてはさっさと頭を切り替え、俺の夢なら今度こそはとき愛キャラ来い!とポジティブに考えてみる。
念仏みたいにとき愛攻略キャラの女の子達の名前を唱えていれば傍の草むらがガサガサ揺れて期待に満ちた顔で振り返った。

「おーい、ルフィー!さっきチョッパーの叫び声聞こえなかったか?」

現われた鼻が異様に長い青年は俺を見つけて片足上げた格好で固まった。


「………」
「………」

脱兎の如く再び駆け出す。

「ってえええぇぇ?!!!」
遅れて正気に戻った長鼻の驚いた声を無視して奥へと逃げる。
なんで?なんで?なんで?なんで!
あれはどうみたって有名な海賊漫画の登場人物じゃん!
間違えようもないあの長い鼻!なんで続けて出てくんの?!

いや、海賊漫画は嫌いじゃない、でも夢に見る程って訳でもない。むしろ会えるならナミとかロビンとかビビが良い。
夢なのに会いたい人には会えないし走ってる足は痛いは疲れるは最悪だ。
もう目を覚ましてとき愛ゲームやろう、それで今日は大人しく早く寝よう。いい加減現実に戻ろうぜ俺。

そうと決めれば立ち止まり、夢から覚めろと意識してみるが変わらない。あれ?
古典的に方法で頬をつねってみるけど変わらない。あれれ?
何がいけないんだ…あ、もう一度寝ればいいとか!
閃いたとばかりにぽんと手を打ち鳴らすと早速寝られる場所を探そうとして振り返った瞬間、空気を震わす程の獣の咆哮に堪らず体が揺れる。
振り向いた先にはマンモスみたいな巨大イノシシがいて口からだらだらと零す涎にドン引きする。

荒い息遣いのイノシシの目は完全に俺をロックオンしているようで今にも飛びかかんばかりに足を地面に何度も叩きつけて機を狙っていた。
後ろへ引き下がりたくてもいつの間にか断崖まで来ていたらしく逃げ道は無し。
きっと夢だから死ぬ事はないだろうけど凄く痛そう。いや絶対痛いでしょ。
絶対絶命さながらの危機に震える足を横へずらすと弾みで枯れ枝を踏んでしまい、パキリと折れた音を皮切りに飛び出して来たイノシシに対抗する手段があるはずなく。

「ぎゃああああああああああ!!!」

予想以上に甲高い悲鳴をあげて頭を庇う様にしてしゃがみこんだ。
神様どうか悪い夢なら早く覚めて下さい
襲い来る痛みに耐えようときつく拳を握りしめて固く目を閉じる。

けれど耳に届いた音はドオオオォォン!!と地面を揺らす程の大きな音。待てども来ない痛みに恐る恐る瞼を開ければイノシシは周りの木を巻き込んでその大きな巨体を地へと横たえていた。大きなタンコブを頭に付けて。
唖然とした視界の奥には黒いスーツと三本の刀を腰に据えた二人の男

助かったのか?…いつまでも危ない場所に居たくはなく、急いで立ち上がるが情けなくもビビりきっていた俺の足はガクンと力が抜けてしまいそのままよろめいてはぐらりと体が傾いた。
咄嗟に前へ手を伸ばしても掴まる物もなくそのまま断崖へと投げ出されていく。折角助かったのにとスローモーションに流れて行く景色の中をどこからともなく伸びてきた長い腕が体に巻き付いてゴム特有の強い反動によって引き寄せられた。おかげで固い地面との対面は免がれた代わりにしっかりとした男の胸の内へと収まる。
急過ぎる展開についてこない頭を何とか上へと持ち上げれば日差しと一緒に麦わら帽子が目に入った。

「ん?誰だおめぇ?」

そしてマイペースな彼らしい質問を答える前に意識が落ちた。


始まりからの逃走
(ざんねん、時間切れ)

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