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気合いを入れてやってきた港街はドラマとか旅番組で見る様なヨーロッパ的空気感漂う場所だった。レンガ詰めの家、アーチ状の桟橋、カラカラと走る荷馬車と自分の住んでいた雑踏な都会とは全く違うどこか小洒落た雰囲気にテンションも上がる。気分は完全に海外旅行者だ。
どこへ行くかもまだ決めていないし、とりあえずはぶらぶら気ままに行くかと石畳の道を歩いているとアイスパーラーらしき店を発見。人気のある店らしく外の席にはそこそこの人が集まっていて若いカップルがよく目に付いた。リア充め!
どんな物かと誘われる様にガラスケースの中を覗けばカラフルなアイスがずらーっと並ぶ。ミントにチョコチップ、バニラ・キャラメル・ナッツに加えてソルベやシャーベットとカラフルな色の数に合わせて種類も豊富に揃い甘い物好きな俺としては食べたくて堪らない。
しかし、さっき気づいちゃったんですよね…俺お金を持ってない。
まぁ、持っていたとしてもこの世界じゃ円なんて何の価値もないだろうけどさ。
手が届かない品と分かると余計にアイスが輝いて見えるし今にも本日のオススメとかを説明しそうな営業スマイルが眩しい店員の視線に居た堪れなさを感じてガラスケースから一旦離れたが、ほんのちょっとばかしの名残惜しさに見るだけはタダだよなと俺はこっそりと店頭横に掲げられたメニューをガン見する。
「あらら?お姉ちゃんは頼まないの?」
アレもコレも美味しそうだ、なんて思っていれば真後ろから声が聞こえ危うくスルーしかけ慌てて振り返る。後ろに立って居たのは何ともこの若者が溢れかえった場所に不釣り合いなおじさん…ってデカッ…!
女装してるとは言えこれでも男子平均身長位はあるつもりの俺よりも頭一つ以上はある目の前の相手に首を真上にして見上げると相手の視線はしっかりと俺へ向いていたから無視する理由も無いので応えた。
「どうぞ、先に頼んで下さい」
真剣に悩んでる風に見せかけて実は無一文とか恥ずかし過ぎるのでそこはにっこりと笑ってごまかしつつメニュー表の前からそそくさとズレる。もしかして俺の後ろで待っていたとかだったら申し訳ない。
俺の態度にさした反応もなく「あ、そう?」なんて言って横を通り過ぎ店先へと動いた男の姿を見届けて、いつの間にかアイスの誘惑に目的を見失いかけていたと、己を叱咤してはもうその場を後にするつもりがそれほど間を置かずしてまた真上か声が降ってくる。今度はなんだよとくるっと振り返るとさっきの人。差し出されたのは綺麗な渦を描いたストロベリーソフトクリーム?そして気づけば仲良く二人並んでベンチに座りアイスを食べてるこの状況。
「…なんで俺はアイス食べてるんですか?」
「いいじゃない、一人より二人ってアレも言ってたし」
アレってなんだよ…
断るタイミングを逃し流されるまま座ってしまった俺もどうかと思うけれどアイスは美味しく頂きます。
ぽかぽかとした春の日差しの下、駆け回る小さな子供に涼やかな噴水の音と時折聞こえる鳥のさえずる声…ここ本当にONEPIECEの世界って疑いそうになる位めっちゃ平和。
暖かな気温によって少し溶けかけたソフトクリームを無言で食べ進めつつも俺の意識は言わずもがな隣の男に向く。白いスーツに青いシャツ、パーマヘアーに額にはアイマスク、キチッとした格好からちゃんとした人っぽいと言う判断で一緒にアイスを食べては見たもののこの人見覚えがある様な無い様な。
漫画を読んではいたけれど主要メンバー以外はイマイチピンと来ない、と言うかはっきり言えば覚えてない。
あやふやな記憶だし違うかもしれないけれど、もしこの男が漫画の中の名前付きキャラとしたらとてもめんどくさい展開になりません?うわ、笑えない。
「お姉ちゃんはこの街の子?」
だらっと気怠そうにアイス食べてると思いきや正面を向いたままのんびりとした口調で問いかけられる。誰だったかと必死に思考を巡らせていたせいで聞かれた意味を理解するのにやや遅れるもすぐにアイスから口を離し顔を上げる。
「えっと、俺は船でさっき着いたばっかりで…」
「ふーん、じゃあ旅行者か。この街には観光客が多いからねー」
海賊船で来た事は言う必要も無いので伏せておく、嘘は言ってない。
それにしても間延びした相槌を返されてるとなんだか俺まで気が抜けそうになるのはなんでだ。相手が誰かと考えてはみたがやっぱり思い出せないし見覚えある気がしたのも気のせいな気がしてきた。ただ背が高いだけで無害そうだしエフェクトも見えないしこの人は大丈夫そうに思える。
「おじさんは街の人ですか?」
「おじさんはひでぇなぁ…俺はそこのアイスが好きなでね、そんで久しぶりに食いに来た訳よ」
3段重ねのアイスを器用に食べてる相手にそれでと顎で示されたのは青い自転車、って事は家は近所か。長い手足を折り曲げてキコキコと自転車を漕ぐ姿を思い浮かべては似合わねぇなんて気持ちはもちろん言いません。けど丁度良い、この辺に詳しいなら何か聞けるかも知れない。
「あの、この辺で一番物知りな人がいる場所って…知ってたり…しませんか?」
とてもじゃないが異世界から来た人探してますとは聞けず遠回りに尋ねて見れば1段になったアイスを食べよう口開けていた相手は中途半端に動きを止めて怪訝な顔を見せる。
「物知り?何?なんか探してんの」
「一応人探し…みたいなものなんですけどね」
「へぇ〜…そうだなぁそこの道から2ブロック先の市場を抜けた所にある酒場の親父なら詳しいんじゃない」
適当な感じで返されたが酒場ならいろんな人間が顔を出すし酒場の店主ともなれば顔が広いのも一理あると意外にも有益な相手の助言に納得する。なら善は急げと手にしたソフトクリームをペロリと食べてベンチから降りると示された道を確認し、傍らで俺の行動を見つめていた相手に向き直る。
「アイスご馳走様です、あのお金は…」
「ん?あぁいいっていいって、俺の気まぐれだから。まぁ次ん時はデートして頂戴よ」
「デートはしませんが、ありがとうございました」
請求されたらどうしようかとドギマギしていたがデカイ体に比例して懐も深かった相手に感謝、変人っぽいとか勝手に決め付けてごめんなさいと内心で謝っておく。「つれないねぇ〜、ついでに送って行こうか?」と言われるが流石にそこまではと頭を下げて俺は言われた道へ足を向ける。柔らかな日差しを遮る様に日傘をさして振り返るとヒラヒラと手を振られたのでもう一度頭を下げては今度はしっかりとした足取りで目的地に向けて歩き出した。
一時はどうなるかと思ったけれど世間もまだまだ捨てたもんじゃないな。
「やっと見つけましたよ」
若い海兵が額の汗を拭いつつようやく見つけた相手に少し不満がましく声をかけた。他の上官ならいざ知らず目の前の人物には少し砕けた態度を取っても咎められる事もないおかげで若い海兵も含め慕う仲間も多い。
「おいおい、今日は非番だって言ったじゃない」
「いえ、それが監視塔の方から報告があり至急連絡せよと…」
恐縮した様な表情で説明する海兵に対して至極面倒だと言わんばかりに隠す事無く大きなため息を吐き出したかと思えばサクサクとコーンまで食べ終えた男は重い腰を上げて立ち上がる。サボりがちな上官ではあるがその足は海軍基地へ動き出し、探しに来た海兵は安堵した面持ちで男の自転車を代わりに運び始める。
「あの、失礼ですがこちらで何を…?」
「ん?ナンパ」
ファースト・シーン((あ、名前聞き忘れた))
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