09 [ 11/17 ]

すっかり夜も耽けまして、甲板へと出てきたら空一面に広がる星が輝いていて思わずおぉ!と一人テンション上がった。俺の住んでいた街は比較的都会に近く空を見上げても必ず無機質なビルが立っていて空を360°見渡せるなんて事は一度も無かった。改めて自分が広い海の上に居るんだなと実感…。

そして大きなマストの上にくっついている展望室に視線が留まる。ゾロはまだやってんのか?さっき男部屋を覗いた時にもいなかったし…多分まだ居る。

フォアマストにかかるロープへ手をかけると俺はゆっくりと慎重に登った。こんなの子供の頃に登ったアスレチック遊戯以来だ。その時真上から一度落ちた事のある俺はそれ以来高所恐怖症。
握り締める手にはじんわりと汗、ロープが風に揺れてめっちゃ怖えぇ!!
そして何とか上まで来れたら今度は梯子を登って展望室の中へ入り込んだ。

頭を出して中を見るとやぱっり居た。
俺に背を向けるようにして立ってるゾロは馬鹿でかいダンベルを悠々と片手に持って筋トレを。悠々とか言ったけどあれは普通に持つとかありえなくね?俺ならと言うか普通の人が持ったら圧死確定。

「こんな所に何の用だ」

お前もサンジも後ろに目でも付いてんのかと心の中で突っ込んみながらよっこいせと梯子から離れて冷たい鉄の床に腰を降ろす。やっと安心。

「どこにもいらしゃらなかったのでちょっと気になりましてやってきた所存です」

ゾロは俺に隠す事なく懐疑的な態度であったし、斬るとか物騒な事も言われたから気を使って言葉を出したが変な言い方になってしまった。

そんな俺にゾロが後ろを振り返れば驚いた様に目を見開いた。

「…なんだその格好…」

まずいものでも食べたみたいな顔をされた。
ここに来る前に風呂を勧められて入ろうとしたけど替えの服が無い事に気づいた。そしたら丁度良くナミが通りがかり貸してくれると言われたので俺もありがたく借りた。だから、今の俺は黒のエプロンドレスじゃなくてフリルの付いたタンクトップとミニショートパンツのいわゆる女の子のルームウエア姿。

普通に服貸してくれたナミも抵抗なく着てしまった俺も別に問題はないと思う。多分。

「え?なに似合って無い?」

そこまで悪くは無いと思ったけれどおかしいのか聞いてみたがゾロは応えてくれずに顔を戻してまた筋トレを始める。なんだよそんなに邪見にしなくてもいいじゃないか。
でも、ゾロがそこまで慎重で疑り深いのも自分の仲間を大事にしている訳だから、俺みたいな得体の知れない自称異世界人とか言ってる奴なんて信用出来ないんだろうな。

まぁそれも仕方ないかと思いつつも信じてもらえいたいなって気持ちもある。

「やっぱりゾロは俺を斬る気満々だったりする?」

漫画で知ってるゾロの人となりに好感を持っているだけに、そんな相手からいきなりバサァーって斬られたら切ないし怖いじゃん?。絶対俺は逃げられないのは目に見えている。それなら残念だがなるべくお近づきにならない様にしなきゃとか思う訳ですよ。

中々返答が得られずコイツ聞いてんのかと立ち上がってはゾロの傍らに行くと俺なんかに構わずに黙々と筋トレ。口も聞きたくないのかよと毒づきかけて口を引き結ぶ。来た意味あったかな…心中で溜め息を零しつつもう下に戻ろうと後ろに踵を返した。


「俺は異世界とかなんて信じちゃいねぇ」

ゴトンっと床に置かれたダンベルから鈍い音がたった。
壁にかけられたタオルを手にして汗を拭うゾロの口から言葉が聞こえ踏み出しかけた足を止めて振り向く。
そして不意に伸びてきた手が俺の二の腕を掴む。体を動かしていたゾロの手の平は暖かく海風に触れていた俺の体には酷く熱く感じた。

「でも、こんな細せぇ腕した変な奴に俺の刀を使うまでもねぇな」

ゾロの浮かべる表情は硬質的なものから一変して少しだけ気を許してくれたような微笑を口元に浮かべていた。

えっと、それはつまりもう警戒なんかしてないって意味でいいのか?それとも言葉の通りに武器なんか使わなくたってやっちまえるぜ!的な嘲う意味でで言っているのか、相手の雰囲気を察するに答えはどうやら前者らしい。

いつの間に心境の変化があったのかはわからないが他の奴らと同じ様に打ち解けてくれるなら俺は万々歳だ。みんなと一緒に食事したおかげか?まぁいいや。

大きな手のひらが腕から離れる。ゾロは暫し俺の顔を眺めて今度は俺の髪先を指で触れた。

「…髪黒いな」

「あれはウィッグ…えーと、カツラでこっちが自毛」

風呂上りの俺はウィッグを被っていないから自毛の黒髪をそのままさらしてた。風呂に入った時に目の色が変わっていた事には驚いたがそれ以外はそのままで、これがトリップマジックってやつかと適当に納得したのはついさっきだ。

「ふーん、おまえの顔なら黒い方がましだな」

失礼な事を言われた気がするけれどゾロなりの褒め言葉として受け取っておく。どうせ日本人には明るい色は似合いませんよ。ゾロとかナミとかサンジとか色物が似合うのは元が良い漫画キャラだけだ。

俺の不服そうな顔がよほど酷かったらしくあのいつも仏頂面を見せていたゾロが笑った。
そして飽きたとばかりに毛先を掴んでいた手をすぐに離してまだ筋トレを続けると言うからゾロを残して俺は先に展望室から降りた。


自分から勇気を出して立ち向かって良かったな、戦利品はゾロとの友好度+1

それと二度ある事は三度あるとはよく言ったもんで、例のアレがやっぱり俺には見えてしまった。
とっさに手を伸ばして触ろうとしたけれど触れなくてゾロには怪訝な顔をされるしアレがなんなのかわかる人がいたらホントに教えて欲しい。



名探偵は不在
(いっそ見なかった事にするか)

[*prev] [next#]
top


「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -