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明かりのもれる扉の小窓からこっそり覗けば目当ての人物は黙々と水仕事をしていた。扉を開けるのに躊躇してしまう小心者な俺。けれどいつまでもここに居てもしょうがないし、夜の海風は酷く冷たい。
心の中で十字を切り神様!と祈りそうになり、すぐやめて仏様に変更する。(俺の中で神様の株は大暴落中だからな)
“仏様!どうか俺に勇気を下さい!”
気合を入れてからやっとキッチンの中へと入った。
パタンと締めた音を最後に皿を洗う水の流れる音だけがいやに響いて聞こえる。サンジから声をかけてこない様子から相手が俺である事は分かっているらしい。
「…何の用だ?」
どうしようかと思索しようとしたが急に平坦な声が聞こえて慌てて俺も応える。
「カップとお皿、片付けに来た」
「なら、そこに置いてくれ」
顎で示されたのは流し台の隣で俺はいそいそと両手に抱えた食器を運ぶ。ダイニングからキッチン内に入り込みサンジの隣へと来ると食器を置いた。けれどサンジの言葉は無く、手持ち無沙汰になってしまった。
このまま部屋に戻ったら意味がない、そもそも話す目的で来たんだ。
「俺も手伝う」とサンジに声をかけて綺麗になった食器を棚へと片付けていく。
特に何も言わない所を見ると居てもいいらしい。
戸棚へお皿を入れながら無言の居心地の悪さが何とも言えない。手にしていた食器を全てしまいやっと俺の中で踏ん切りが付いたので本題を口にする。
「サンジ、俺…騙すつもりなんて無かったんだ」
「………」
「すぐに言い出せなくて…ごめん、なさい。」
何とか口に出来た俺の謝罪を聞いてもサンジは何も言わない。そこまで傷付けたのかと内心焦り、表情が見たく戸棚に向けていた顔をそっと動かしサンジの方へ。
俺の伺う視線に大きな溜め息吐き出しては水道の蛇口を捻った。
濡れた手を吹いてタバコを取り出しシュボッとライターで火を付けては白い煙を吐き出す姿が様になっていて、場違いにも少しカッコイイと思った。
元からサンジはイケメンの部類だしな当たり前か。
そしてようやく俺を見てくれると口を開いた。
「別に、怒ってねぇよ」
「…嘘?!怒ってただろ!黙ってるし俺を見た時、嫌な顔した」
待ちに待った第一声の言葉に俺は加害者?側でも関わらずに憤慨した。
何言ってんですかアンタ!俺ははっきりと苦い物でも食ったみたいな顔を見た!これで怒って無かったとかじゃあさっきまでの無言の威圧感はなんだ。俺は胃が痛くなってたんだぞ!
「あれは…違う」
俺が不満タラタラの顔で見つめているとガシガシと自分の頭を掻いては彼らしくない酷くバツの悪そうな顔を浮かべる。
「レディと野郎を見分けられない俺に腹がたってたんだよ…」
「男を口説いてたなんて恥ずかしくて顔見せれるか」
言いたくは無かったと深い溜め息と一緒に白い煙を吐き出す彼のその表情を見れば本当に怒ってはいなっかたらしい事を感じ取る。なんだよ、じゃあ俺の取越し苦労だったって事じゃないか。けれどその言葉のおかげで俺の中の不安は消えていき。
「そうか、よっかた。」
「うッ……」
ホッとした思いに比例して笑顔を浮かべた俺を見て一瞬だけ瞠目したような顔になったサンジだったがすぐに顔を引き締めて俺から視線を外した。ん?
「なに、どうした?」
「調子が狂う…」
困惑した顔で再び俺を見るサンジが面白くてつい笑ってしまう。サンジ程、女と男の扱いに差があるのなら俺の見た目は扱いにくいんだろう。
「蹴ってもいいよ?」
「なんだそれ?」
俺の言葉に特徴的な眉毛を上げるサンジ、流石に本気で蹴られれば身体能力も平凡な俺じゃひとたまりもないけれどどつかれる程度位ならどうって事ない。こんな格好でも中身は男だし。うん、でも出来たら蹴られたくないな。痛いし。
そんな俺の心の声を汲み取ってくれないかな?なんて思っていれば普通に近づいてくるサンジ。
え、今蹴る感じですか?腹に、腹に力入れた方がいいのかコレ?
かっこよく言ってはみたけどいざとなればビビリな俺の心はバクバクな訳で、実は怒ってはいないけどお礼はきっちり返したいとか、蹴る気満々なのかと考える間に目の前に立たれてしまったので少し俯きがちに顔を引いて身構える。そんな俺をサンジは鼻で小さく笑う。
ぺちっ
「ったく…いつまでに外に居やがったんだよ。とっとと風呂入って寝ちまえよナナシ」
ドッキドキに身構えていたけれどあの素晴らしくカッコイイ強烈な蹴りは無く、変わりにタバコを持っていないサンジの左手の甲で頬に触れられた。
俺がびっくりして目を開けた途端にその手はすぐに離れた。
な、なん中イケメン行為を…!俺が男だったから良かったものの女の子なら一発で落ちるぞ…あ、サンジは女の子にモテたいから別にいいのか。なるほど。
顔を上げてサンジを見上げるが片付けの終わっていた相手は俺の横を通って扉へ手をかけるとさっさと出て行った。
これでサンジとわだかまりが無くなって良かったとか、イケメンは何しても様になりやがってとか、ちゃんと名前で呼んでくれたなとかいろいろ思いはしたけれどそんな事よりも最後に顔を上げた時俺には、
サンジの周りをキラキラした光を纏った青い薔薇が咲く映像がまた見えた。
分からないことだらけの、(特に今の星とか、薔薇とか、映像とかね!)
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