最果て*



ぴゅうぴゅうと風に吹かれ野ざらしで乾いたシーツの肌触りも、まあたまには悪くない。それでも私はやっぱり乾燥機で優しく丁寧に乾かされた、柔らかくてフワフワの、まるで傑に抱き締められたときみたいな。あんな感じのシーツの肌触りが好きだ。

誰もいない21時の洗濯室。乾燥機は200円で20分。マンガ1冊急いで読んでギリギリ読み終わるかどうかの小さな時間ですら必死で捕まえて、私と傑は乾燥機の影に隠れながらひたすらに唇を重ね合っている。

「ん、っ、すぐ、る」
「なまえ。腕、ちゃんと回して」
「ぅ……んん、ん」
「ん、そう」

私たちは3ヶ月前に付き合い始めて、1ヶ月前に初めてセックスをした。お互いの味を一度知ってしまった健全な青少年である私たちはそれ以降、隙間さえあればそこに2人隠れるようにはまってはこうして粘膜のどこかしらをくっつけ合って、ぐちゃぐちゃに溶かし合っている。今だって洗い立ての私のシーツを乾燥機にかけに来ただけなのに、まるでわざわざ洗濯室にキスをしに来た阿呆かのようにお互いを貪り合っていた。

だって、私は傑を知ってしまったのだ。そうなってくると彼のちょっとした仕草、例えば目の前で傑が脚を組み替えたり。そんな些細なことで傑に触れたい衝動をどうにも我慢できなくなってしまう。でもそれは、傑の方も同じみたいだった。

「は、ぁ、やば。すっごい濡れちゃった」
「私もやばい。あと6分」
「傑の大っきくなってる。我慢できる?」
「正直キツいね。……我慢しなくて良いならしないけど」
「だめ。ここでヤるのは流石に猿すぎる」
「ふふ、言い方。少しだけ触らせて」
「う、ん……ぁ、待って人来るかも」
「大丈夫。来たら分かる」

くるりと反転させられ、傑の熱い手のひらが後ろから私の身体を滑る。借りたTシャツはサイズが大き過ぎてダボダボだから、油断した私がノーブラで出てきたことをこの男はちゃっかり見ていたらしい。
木綿の荒っぽい布の上に置かれた傑の体温がじんわりと肌に染み込む。やわやわと胸全体を這っていた手が、両方の胸を柔らかく包み込んだ。無害そうな動きをしていたはずのそれは全くの偽りで、途端に先端を爪の先で上下になぶったり、軽く摘んだり、先端の周囲を曖昧に撫で始める。
冗談抜きにそれだけでもイキそうなくらい気持ちが良い。こうして布一枚隔てると、一生懸命に快感を拾おうとして神経まで阿呆になるらしかった。

「ぁ、う、触り、かた……やらしい」
「やらしく触ってるんだから当たり前だろ」
「っ、きもちい、傑」
「なまえ、これ」

傑の爪の先が、ぴんと主張しきっている私の胸の先端を軽く引っ掻く。

「ぅ、ん」
「これじゃあ下着付けてないのバレバレ」
「傑のせいじゃん。……はやく部屋戻ろ」
「そうだね。誰かに見られたら困る」

は、と熱い吐息が耳にかかって、私の臀部に押し付けられている彼の下半身の熱は痛いくらいに固い。わざと押し返すように腰を動かすと、「やめて」といかにも正論然とした口調で制されて思わず笑ってしまった。やめて、だって。こんなに勃ってるくせに。

やっとのことで乾燥機がピーピーと終了音を立てて、むしろそれが始まりの合図とばかりに2人でシーツを引っ張り出す。乾きたてホカホカの真っ白いシーツをたなびかせながら、一目散に廊下を駆け抜けた。一分一秒でも早くふたりぐちゃぐちゃに混ざり合いたい。その純粋とも言えるほどの青き欲望のまま部屋まで追いかけっこをした。どうか誰も見ていませんように。悟あたりに見られたら一巻の終わりだ。




ベッドに放り投げられたまだほんの少しだけ温かいシーツの上に2人で思いっきり沈む。さっき洗濯室で散々味わい尽くしたはずのお互いの舌を再び絡め合うのと同時に、傑の手が私のショートパンツごと下着を引き下ろす。胸への刺激のせいで垂れてきそうなくらいに濡れていて、糸を引いたそれが太ももにくっついてヒヤリと冷たい。

「なまえすごい濡れてる。お風呂みたい」
「あはは、なにその感想」
「ぬるぬるで熱くて、入ったら気持ちよさそうってこと」

つつ、と指先でなぞられて、指でもいいからとにかく質量でそこを埋めて欲しくて腰を揺らす。無抵抗の傑の指がつぷりとそこに埋まると、次は動かして欲しくてたまらなくなる。これじゃあ底無しだ。はやく奥まで突っ込んで、少し乱暴でもいいから一番気持ち良い所を揺すって欲しい。私の恥じらいなんてものは、1ヶ月前に傑の部屋に置いてきてしまった。

「ん、ぁ、すぐる」
「まだ指動かしてないよ。なまえが勝手に動いてる」
「昨日の上のとこ、っ触って」
「ここ?」
「は、ぁっ、やば。きもち」
「……またシーツ汚さないように気をつけな。せっかく洗ったんだし」
「や、っ、んん、あ、ぁ」
「ほら、危ない」

どろりと溢れてきてお尻の方まで垂れそうになった愛液を、傑の指先が掬う。掬ったそれを中に戻すように指を再び埋められて、気持ちよくてたまらない少し上の所を規則的に指先で掻かれると、お腹の奥から頭の奥までがざわざわと震えた。

「むり、っ、イっちゃう」
「中でイきたい?外でイきたい?」
「どっ、ちも」
「なまえは欲張りだね」
「ん、ぁ、……ね、傑のでイきたい」
「……それは反則。優しくできなくなる」
「いーよ。めちゃくちゃに、して」
「へえ。今日は随分と煽るね」
「傑にひどくされたい、のっ、あ!ぅ」

言い終わる前に強く腰を引かれて、傑の暴力的ともいえる質量が体内に深く埋まる。いつもは埋めてからもしばらくじっとして私の膣内がぴったりと馴染むのを待つくせに、今日は別人のように性急な律動を始める。私の中から強引に出たり入ったりするそれは、ぐちゃぐちゃと耳をふさぎたくなるくらい生々しい音を部屋中に響かせた。

「あ、ぅ、やっ、すぐる、は、げし」
「っ、あれ。私にこうされたかったんじゃないの?」
「あ、ぁ、っや!ぅ」
「は……なまえの中、きもちいい」

傑はいつも私を気持ち良くすることばかり考えているみたいで、自分の欲望は後回しにする。だけど今はただ傑の快楽のためだけにめちゃくちゃに動かれて、彼の理性の仮面の下に確かに流れる本能が剥き出しになっている事に堪らなく腰が疼く。私は傑に優しくされたいと思うのと同じくらい壊されたいとも思う。その感情が恋愛に紐付いているものなのかはまだ分からないけれど、傑になら殺されてもいいかもなんて思っちゃうのは、ちょっとおかしいかな。


「ん、あ、ぁ、だめ、イきそ」
「なまえ、さっき外でもイきたいって言ってたよね」

見せつけるように左の指先をぺろりと舐めた傑が、それを結合部へ滑らせる。えぐるように奥を激しく突き上げられながら、外の敏感な所を指先で押し潰されると、そのあまりの快楽に身体が大きくしなった。頭が使い物にならなくなって、もしかしたら高専中に聞こえてるんじゃないかと思う程の嬌声が止められない。

「ぅあ!や、あっ────ぅ、あ」
「っ、すごい締まるな」
「すぐる、まっ、て!イって、るから」
「黙って」

顎を掴む乱暴な手とその口調とは真逆の優しいキスが落ちて来て、舌を絡められると私はいつだって黙らざるを得なくなってしまう。絶頂の痙攣に震える膣内にがつがつと腰を叩きつけられると、中でイってるのか外でイってるのかもう分からない。傑の大きくてあっつい身体にただひたすら抱きついて、傑の剥き出しの欲望のままにただ揺さぶられていた。

いつもの穏やかさを無くした指先がその美しい黒髪を掻きあげて、ささくれ立った吐息を洩らす。私を見る黒い瞳には慈しみなんか一切無くて、持てあました衝動を私に叩きつけて発散しようとする鋭さだけが揺れている。傑に抱かれるまで、私の本当の欲望みたいなものはずっと奥深くに眠っていた。それなのに傑の手で、傑のこの身体によって目覚めさせられたのだ。こんな身体にした責任を取ってほしい。

「なまえ、腰動かして」
「ん、ぅ、あ、っは」
「そう。上手」

私が知らなかった快感を、傑は全部知ってるみたいに与えてくれる。上手、とか言うくせに私の腰に添えられた大きな手が動きを促しているから、結局すべて傑の意のままだ。気が遠くなるくらいに気持ち良くて、いっそこのままどこか遠くに行ってしまいたかった。

「やっば、奥、ぁ、ん!イく」
「ん、私もイく」
「ぅあ」

傑って、普段はこの凶暴性をどこに隠してるんだろうか。舌を噛みそうなくらい激しく腰を叩きつけられて、散々暴かれた所よりもさらに奥にある場所を揺さぶられる。泣きじゃくるみたいに震える私の中から、傑のものが勢いよく引き抜かれた。
私のお腹に掛かるはずだった飛沫は胸の方にまで飛んで、その生温かい感覚と耳元に感じる傑の荒い息遣いが可愛くてたまらなくなって、傑の腕を数回やわやわと撫でた。理性の色を取り戻した傑の瞳が、私を映して優しく笑う。

「……大好き、なまえ」
「わたしも大好き」
「大丈夫?どこか痛くない?」
「うん、へいき。ちょっと乱暴だったね」
「ごめん。怖かったかな」
「……ときめいた」
「ふ、変態か君は」

ティッシュで私のお腹と胸を拭ってくれる傑に向けて「すごい飛んだね」と馬鹿みたいに安直な感想を口にする。私と傑がこのまま付き合い続けて、もし。もし結婚なんかしちゃったら。いつか「中に出して」とか言える日が来るのかな、なんてこれまた馬鹿みたいなことを考えていると、傑が私たちに散々揉まれてくしゃくしゃになってしまったシーツをざぶんと持ち上げた。

「やっぱりシワになっちゃったね。……あ」
「なに。あ」
「……もう一回洗うかい?」
「そうだねえ」

当然のことながら、洗いたて乾きたての白いシーツには私たちの欲望の残滓である大きな水ジミが出来あがっていた。隅っこのほうとはいえもう一度洗った方がいいだろう。傑の手からシーツを受け取って、軽く畳もうとしてふと思いつく。

私と傑がこのまま付き合い続けて、もし。
もし、結婚なんかしちゃったら。


「……傑、どう?綺麗?」
「可愛いね。雪だるまの真似かな?」
「違うよ!ウエディングドレスでしょどう見ても」

まだ熱い素肌に巻き付けたシーツが、汗でひたりと張りつく。乱れ切った髪を結び直した傑が、私の左手をそっと拾い上げて愛おしむように薬指の爪を撫でた。

「……綺麗だよ。本物を着てるなまえを見るのが今から楽しみなくらい」
「う……そうですか……」
「フフッ、なに照れてるの。自分から言い出しておいて」
「もうやめてよ」
「こっち向いてなまえ。キスしたい」

寄ってきた傑の身体に腕を回すと、身体に張りついていたシーツが床へと力無く落ちる。
いつか私たちが、結婚なんかしちゃったら。この日のことを思い出して、あの頃はふたりとも若かったねなんて言って笑い合うのだろうか。変わらないこの腕で抱き締め合って、口付けを交わして。その時には「大好き」じゃなくて、「愛してる」って言いながら。





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