「今日むっ……ちゃ楽しかった〜」
「せやなあ。みんな来てくれてよかったなあ」
「うん〜」まだ起きとくんやと言うていたけれど、やっぱり少しは眠いのか。間延びした声とともに、なまえちゃんはごろんと寝返りを打った。日向ぼっこする猫みたいやと思う。きょろっとこちらを見上げるようすなんか、まさにそうや。ふふっと笑みがこぼれる。帳簿や報告書のファイルを保存してからパソコンの画面を落として閉じると、待ってましたというみたいにぱあっと表情が明るくなるのがかわいらしい。
「あんなあ、今日なあ、北のことかっこええな〜って言うとったらなあ」
「そんなこと言うたん」
「いっつも言うてるよ」
「そんでなあ」とんでもないことを言うておいて、よくも平然と話を続けられるもんや。
「私の北かっこええなあって言うたらなあ、赤木がなぁ、北はみんなの北やって言うからなあ」
「あいつも何を言っとんねん」
「はあ〜??私の北やし!!!て言うたってん!」
そんな喧嘩腰に言うたん。
そんな剣幕で路成に、俺がお前のもんやと言うたんかと思うと面映ゆい気持ちがあふれてくる。
「そしたらなあ、おじろが、ここは幼稚園かー!って、ばしばしのツッコミをかましてな……」まだまだ話したいことがあるようすのかのじょの額へ、むずむずするくちびるを押し付けて、くすぐられる心をなんとかなだめた。たのしい話を語るくちは空けておいてやったのに、なんでやろう。かのじょはそれからしばらく黙ってしまった。

畳に寝そべるなまえちゃんと、その隣にあぐらをかいて座る俺。
視線を交え指先で触れ合いながら、夜のみじかい時間をふたりで過ごす。
ときどきごろごろと身体の向きを変えては、こちらへ転がったりちょっと離れてみたりとほんまに猫のような距離のとりかたをするのだが、かのじょがこちらへ向くたび、はじめはなだらかであった心情に少しずつ変化が起こる。
ふああっとあくびをしたかのじょがちゃんと目に入っているというのに、まったくこの男という生きもんは。
ふたりひっついて眠る晩はまだまだ温いので、真夏に比べて袖はついたものの寝間着の生地はいまだに薄く官能的だ。仰向けになったかのじょの女性らしい身体つきがしっかりと見てとれる姿に、夕方結局覆すことができずに押し込んだ欲が、むくむくと起き上がってくるのがはっきりとわかる。でもなまえちゃん眠たいんやもんなあ、と思いながらも、つんっと肌をつつくと声をあげてわらうので、機嫌はずいぶんとよさそうだ。よっぽど楽しかったんやろうな。
自分の仕事の手伝いを、あそこまで楽しんでくれるというのもありがたい話や。
つんつんと、やわい肌をつっつくたびに笑うかのじょが逃げるように再び畳を転がろうとしたとき、「う」と色の変わった声を出したのでどうしたんと声をかけると反対向きに回って、再びこちらを向いたと思ったら顔をしかめている。
「なまえちゃん?」
「いま……くびが……」
「くび?首?」
「いや肩かな、肩がゴキッて鳴って……聞こえた?」
「いや、聞こえんかった。痛い?」
「ううん、痛くはない。けどビックリした」
「ちょっと見してみ」
両手を広げるので、首に負荷のかからへんよう注意して抱き上げ、ふところまでかのじょを持ってくる。首のよく見えるようにあたまをもたげて、んっと肩もさらされて、様子をみれば特に変わった様子もない。指を走らせ痛むか聞いても首を振るのだから、痛めたわけではないのだろう。ただし中腰や運転の多い作業であったために、普段使わない筋肉は疲労していることには違いがないので、違和感があるのならあまり動かさないようにと伝え、首と肩の境目のカーブへくっと指を沈める。なまえちゃんはぴくっと震えたのち、はあっと息を吐いた。
「んっ……それ、そこ……」
「ここ?」
「はあ〜っ……」
きもち……と吐息まじりにささやかれて、しかもその息が耳に当たる。というか身体をあずかっているのでいろいろ当たる。
「なんできた、肩もむのんまでうまいねん〜」
「なんやそれ」
「もお〜……むっちゃええ……」
にこおっとあまい笑顔まで向けられて、ぎゅっと首にすがられて、そんなことをするから、あーあと思った。しばらくはやわめにくびと肩を行き来させ、より警戒心の融けたなまえちゃんの腕をとって、親指を脇のそばまで差し入れてこりこりさせる。
「ふっ……く、ん、んん、ふふっ、やあもう」
「気持ちようない?」
「んっ、き、もち、ええけど〜……」
ぴくぴくと都度反応するさまにこちらもぞわぞわしてくる。くすぐったくのあるようなので、しつこくするとはあかんなと思って二の腕のほうへ移動することにして、ゆるい力を指先に込める。外側よりもずいぶんとやわらかくて弾むそこを揉みほぐすと、かのじょはいっそう声をあげてよろこんだ。
「はあ〜……それぇ……!」
「これ好き?」
「うんすきぃ……」
やわやわと、どこかを連想させるほどやわらかなそこを揉んでいると、こっちの身体も熱くなってくる。反対側の腕に指を滑らせれば「ひゃあん」なんてあまい声を出して耳を犯しにくる。
ちゅうか。
さっきっから甲のほうにたぷたぷと当たっとるんですけど。
なまえちゃん気づいてないん?
「きもちいぃ……」
このまんまちょっと指を伸ばして、引っかいてしまおうか。なんて。
批難をすることなくこの指の動きをことごとく甘受するなまえちゃんを見て……ほんの少し、なんというか――魔が差した。
「なまえちゃん凝っとるなあ」
「ん〜、んん」
「せっかくやから、もうちょっとしたろか?」
「ええの?」
北つかれてない?と見上げてくる無垢な目玉に微笑みかける。
気遣ってくれるん、ありがとうなあ。とあたまを撫でるとこれまた心地よさそうに目を細める。
「ええよ。あとで俺もしてもらうから」
ええ?と首をかしげると、ふわふわとしたまなざしのまんま、ええよぉ、と返ってきた。
ええお返事や。


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