あの子がほしい  H.26/07/08


(土沖)2014沖誕です。なんの新しさもなくてすんません。銀沖もいけたらUPする。







「あの子がほしい」



坂田はどうにかして沖田をものにしたいと思っていたものだから、いつも何かしら恩を与えては自分を売り込んでいた。
今日も沖田の誕生日に備えて、なにか金のかからないものでリクエストはないかと本人に聞いてみると、沖田は少し考えて子供らしい残酷さの滲み出た無表情を見せた。

「俺ァね、旦那。誕生日にはひじかたが欲しいんです」

「あん?」

沖田がずっと土方にばかり悪戯を仕掛けているのは知っていた。だが最近はこちらにも懐いている自信があったのに、やはり沖田にとっての一番は土方なのだ。

「いやね、俺ァ別に執着するつもりはありやせんが、最近あの人ァ俺のおそろしさを忘れているようでしてね。ここいらで一発ガツンと痛い目にあわせてやりてえんです」
「はあ」
「まあガツンと言うか、もう逃がす気はねえんです。俺の手からは逃れられないっていうね、そういうのがいいんでさあ。だから旦那、俺の誕生日にはひじかたをくだせえよ。ひじかたの野郎を捕まえて閉じ込めてほしいんでさあ。あいつは俺のおもちゃなんですから」

沖田はそう言って、まるではじめから坂田に頼むつもりでいたかのようにポケットからどこかの地下倉庫らしい鍵を取り出した。

何が哀しくて恋敵を贈らねばならぬのか納得いかないが、そこは惚れた弱みで坂田はハイハイと素直に頷いた。

沖田は、土方には考えもつかないような姑息な手段が使える上に斬り合っても負けない坂田に頼むのが一番だと解っているようだ。
いざとなると自分は土方に敵わないと思っているのか、そこが沖田の土方に対する雌の感情だと思うのだが、とにかく沖田は失敗の無いよう坂田という安全牌を選んだ。

光栄には違いないので、沖田の誕生日に間に合うよう真選組の副長を闇討ちしてとらまえる。
十分遊んで飽きたら俺のところへおいでと言って鍵をぽんと投げてやって後は知らない。
坂田はそこまで飢えていないので、沖田が自分に興味を持つまで待てばいいとそれくらいのものだった。


*      *


沖田は、坂田に返してもらった鍵を使い上機嫌で倉庫の鍵を開けた。
果たしてじめじめとした地下倉庫の奥に、天井の左右から伸びた鎖に両手首を吊るされた土方が、ベスト姿でぐったりとしている。
包帯のような白い布で強く目隠しをされており、いつもの隊服のスカーフは外されブラウスのボタンがふたつ飛んでいた。

土方の姿を見て、沖田の頬は興奮で紅潮した。
「土方サァン、すげえ色気ですぜ。興奮しちまわあ」
「・・・」
「どうです?拘束された気分は」

「・・・テメエか、こんな仕様もねえことしやがったのは」
一体何時間こうやって放置されたのか、身体が固まってしまったかのようで苦しそうな声。

「俺の前ではそうやって頭を垂れているのがお似合いですぜ」
「何が目的だ」
「ただアンタを屈辱にまみれさせて、アンタの苦しんでいる顔を見てえだけでさあ。土方さんは俺がもらった誕生日プレゼントなんですからね、もうアンタは俺のモンだ」

土方はがっくりとうなだれたまま、ただはあと息を吐いた。
沖田の声がする方に首を向ける事も無く、それから何も言わなくなってしまったので沖田はつまらなくなって倉庫を出た。

どうせ明日になれば泣き言を口にするだろう。
水をくれ、飯をくれ、お前に服従するから自由にしてくれ。

考えるだけでぞくぞくとする土方の姿を想像しながら沖田は眠りについた。


*     *


地下倉庫に戻った沖田は、きついアンモニア臭に目を細めた。

「あれェ土方さんてば、水も飲んでねェのに小便だけは垂れ流しちまってんですねえ」
土方の股間はぐっしょりと濡れている。隊服の黒がそれを隠してはいるが、足元のコンクリートがじっとりと濃いグレーの染みを作っていた。

「土方さん、どうです調子は」
目隠しのままの土方に近付き顎を捉えて上向かせる。
かさかさに乾いた唇は少しだけ開いているが、なにも言葉は発さない。
声も出ないのか、二日間水も与えられずにいてまだ抵抗する気なのか。

「もうまる一日考える時間が必要でしょうかねえ。でも明日も同じ態度じゃあそろそろ本当に死んじまいやすぜ」
沖田はポケットから土方愛用の煙草を取り出して土方の色を失った唇に挟む。かちりとライターを近づけてやると、まだ息をしている証拠とばかりに煙草の先に火が移った。
俺が帰ったらここは真っ暗になるから、煙草の火だけがぽつんと光るのだろうなとぼんやり考えながら沖田は倉庫を出た。


*      *


沖田は特に土方に固執している自覚は無かった。
欲しいとは言ったけれど、土方を苛め抜いてやりたいというサド心がそうさせていると思っている。
今日こそは意地っ張りの土方が己に跪いて許しを請うところを想像しながら、倉庫のドアをぎぎぎと開けた。
臭気はより一層強くなっていたが、それは昨日のアンモニア臭がひどくなっただけのようだ。

「土方サァン、アンタひょっとしてベンピですかぃ?俺ァ糞垂れ流してるアンタが見てえんですけどねえ」
昨日よりも更にぐったりとしている男を見てぞくりとした。
自然唇が笑みの形になるが、沖田本人は自分が異常だという心持ちは無かった。
壁の留め具を少し緩めると、どさりと音がして土方が膝を着いた。鎖が少し伸びたので拘束は変わらないが尻を床につけることはできる。
その足元を見て、沖田が声を出して笑った。

「アンタ・・まさか小便を・・・くくっ」

先程は気が付かなかったが、元は白い土方の靴下が薄汚れて片方くしゃりとコンクリートの床に落ちている。視線を移すと土方の右足は裸足。
土方は喉の渇きに耐えかねて己の靴下を脱ぎ、床の小便に吸わせてきっと足を使って口まで運び啜ったのだろう。

「あはっ・・・あはははは!!とんだ変態でさあね、己の小便を靴下に含ませて飲むなんて!さすが真選組の副長じゃねえですか、生への執着心は見上げたもんだ」
腹をかかえて笑っている沖田を、それまで下を向いていた土方がじっと見ている。
否、目隠しの為に見えないはずなのだが、沖田の方に顔を向けていた。

「ふふっ・・・く・・バカウケでさあ、いよいよ身体がしんどいみたいですね。さあ、今日こそ言ってくだせえよ。ほしいもの、ほしいものを俺に」

小便以外の物を口に入れたければ泣いて頼めと沖田が思った時、土方の裸足の右足がゆっくりと動いた。
両手は鎖に拘束され、汗でべとべとの前髪が目隠しの布に掛かっている。数日風呂にも入っていない為に、はだけた胸からは強い雄の臭いが立ち上っているが、それも尻もちをついた股間の粗相臭に強く上塗りされている。小便が垂れ放題のスラックスが、今は広げた足と同じ形にぺたりと肌にくっついていた。
その先の白い足の親指が、床に残った小便をぺたりと取って延ばす。
すぐに枯れる液体。また水だまりから親指の筆で小便を取って書き足してゆくのを沖田がじっと見た。

土方は、目隠しのままゆっくりと、己の漏らした小便で床に





と書いた。




沖田は、今までとは全く違う意味で身体中がぞくりとするのを感じた。

執着はしていないと思っていたが、興味の対象としてちょっかいをかけるのはいつも自分の方だと思っていた。
土方に欲しい物を聞いて、この状況でまさか己の名が出てくるとは思わなかった。兄弟同然に育った兄貴分。その兄に性的欲求をつきつけられたことなどなかった。
追いかけるのはいつも自分。それが急にぼろりと崩れた時、恐怖にも似た嫌悪感が喉元までせり上がって来た。

どうして良いかわからなくなった沖田は、そのまま何も言わずに踵を返して逃げた。



『そうごと書いた』
『土方さんがそうごと書いた』
あの極限の状態で、命を繋ぐ水をくれと言わずに、ただそうごと書いた。
そう思うとおそろしくなって、沖田はその後二日間土方を放置した。
水も飲まずに五日も人間が生きていられるものだろうか。また小便を飲んでしのいでいるのだろうか。
七月の地下倉庫は窓も無く、恐ろしいほどの湿気でその暑さだけでも土方の体力を奪うだろう。

沖田は、おそろしいながらもいよいよ土方がほんとうに死んでしまっているのだろうかと思ってようやっと地下倉庫に向かった。

まだ土方が生きているかもしれない。
沖田は腰が引けているのを気取られたくないと、ポーカーフェイスで重いドアを開ける。


中は、およそ5分も耐えられないような臭気があふれていた。
熱帯地域かサウナかというほどの熱気の為に視界が曇るほどで、沖田は慎重に足を一歩踏み出した。

「土方・・・さん?」
倉庫の真ん中、土方が鎖に繋がれていた場所へ足を進める沖田。
蒸気のようなもやを抜けて鎖を辿り土方がいるはずのところまで来た時、追って来た鎖はぶつりと切れてそこにはただ何も無い空間だけが在った。
はっとして身体を固くした瞬間、何の気配もなかった背後からがんと後頭部を殴られて沖田は前に倒れた。

「うっ」
顔を床に打ち付けそうになって思わず両手を前に着いた。
背中に何かががばりと覆いかぶさってきて、更に熱い息が首筋にかかる。
「はあ、はあ」
「ウッ・・・ひじかた、さん?」
「はあ、はあっ、はあ!」
汗でべったりとした大きな手が、沖田の髪を掴んだ。ぐいと引っ張られて身体が弓なりに反る。
首を捩じって必死に背後を見れば、頬がこけ無精ひげを生やし、垢で汚れた顔の土方が沖田を見ていた。

目隠しはしていない。数日ぶりに見る上司の瞳。
目の焦点が合っていない。
極限の状態を越えて狂ってしまったかおそろしい妖怪にでもなったかのようで束になった髪がべっとりと額を覆っているが、ほんとうの芯のところではしっかりと己を持っているような、そんな土方。
恐怖で動けない沖田をゆっくりと裏返して、獲物が仰向けになったところへ四つん這いで乗り上げて肩と足を抑えた。

何を一体どうやって自由の身になったのか、それは解らない。
だが、己が好きにできるはずの土方が今、五日間飲まず食わずでそれでも沖田を奪おうと襲って来た。

「ひじかた、さん」
足を大きく広げさせられたまま大の字で土方の四肢によって床に縫いとめられている。この体勢が急に気が遠くなるほど恥ずかしくなった。加えて今倒れ込んでいる床はじめじめと時化っていて、きっとここは土方の体液がたまっていた所だから、それを背中いっぱいに浴びているということだった。
あれほど土方の粗相を嘲っておいて、今その泉に自分が浸かっている。
どきどきと自分の心臓の音が強くなるのを他人事のように沖田は感じた。


「何が、欲しいと聞いたな」
肉食獣のようなあつい息を吐いて、はじめて土方が声を発した。


「俺は、総悟が、欲しい」

ほんとうに肉食の狼
「餓鬼が、誕生日だか何だか知らねえが俺を欲しがったんだってな。望み通り俺はお前のモンになった。今度はお前が、俺のものになる番だ」

まっくらな地下で、むせかえるほどの熱気と臭気に包まれて初めて男だと知った土方が目の前で欲情している。

沖田は土方に押さえつけられながら、正体のわからない快感がぞくぞくと身体を走り抜けるのを感じて、それを必死に隠していた。





(了)
























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