愛くるしきは今日かぎり  H.26/05/06


(土沖)2014土誕です。いじらしい沖田さんを書きたくて書けませんでした。スマホ、iphoneで読みにくい人は横画面で大きさ調節して読んでくれ。







「愛くるしきは今日かぎり」




すこしは憎まれ口以外の言葉を吐けないもんかと言いたくなるほど、沖田は毎日毎日何年も土方に「死ね」と言い続けてきた。
そのうち土方にとってその言葉はたいして意味も無くなってきて、なんならそれが沖田の挨拶のように感じてきたが、油断していると本当に殺されそうになるのでそうそうクールに流すこともできない。

そろそろ日によっては日勤の外回りが日射しできつくなってくるこの時期、土方はどうも尻の座りが悪くなってくる。心落ち着かなくなる理由は5月5日の誕生日だ。
毎年きまって沖田が祝いだと称してえげつない悪戯を仕掛けてくるのでいつもより余計に命の危険に晒される。
懐かれて羨ましいと言う輩もいるが、それならば代わってやると言うと皆一様に尻込みした。

「ちくしょう、いてえな」
今朝ほどヘタを踏んで後頭部に鞘ごと一発くらったので、丸一日視界がくらくらした。当たり所でも悪かったのかと心配したが、夕方になってようやく「患部を押さえれば痛い」というくらいまで回復した。
朝からの痛みが、これはいつか本当に殺されるぞと土方に教えてくれた。誰に何を言われようとも懐かれていることは解っていたはずなのだが最近自信がない。ほんとうに死ぬ、ほんとうに死ぬと何度思ったことか。


禁煙の食堂で煙草を咥えるが、鬼の副長に文句を垂れる者は誰もいない。
煙を大きく胸に吸い込み吐き出して、ようやく人心地がついた。
気分が悪かったせいで飯を食う気がしなかった。一体今年はどんな祝い(嫌がらせ)を仕掛けてくるのやらと思うと、今日の誕生日のことを考えるだけで吐きそうになる。


「あ、沖田隊長」
沖田のことを考えていると、隊士の一人が食堂の入り口あたりで当の本人を呼んだ。
はっとして顔を上げた瞬間、

「死ねぇい土方」

どかんという爆発音と熱風が土方を襲った。
正しくは食堂全体を、だが。

「ぐああああああ」
皆巻き添えを食って仲良く吹き飛んで、なんとか顔を上げてみれば沖田が邪気の無い顔でバズーカを担いでいる。
「クッソてめえ、屯所ン中でそれ使うなっつっただろーが!」
「こないだは街中で使うなって土方さんが言ったんじゃねえですかぃ」
「俺に向けるなって言ってんだ!!!」
「死ねひじかたー」
どおんどおん。
問答無用で吹き飛びながら土方は、沖田と出会ってからこっち十年以上の間で一体何度、この言葉を聞いただろうかと考えていた。


不思議なものでこれだけ昼間は殺意を向けられていながら、夜は可愛い恋人になるのだが、正直今日は疲れて相手ができる状態ではなかった。
一日中バズーカを持って追いかけられ、本気でかわさなければ死ぬという状況の中、最高潮の緊張が続いたからだ。
誕生日プレゼントに己の死を(なんとか阻止したが)もらうなど、宇宙広しといえど土方くらいのものだろう。

仕事も溜まっているが早々に寝るかと煙草を灰皿にねじ込んだ時、すい、と部屋の襖戸が開いた。
この時間に、土方に声を掛けず戸を開ける者は一人しかいない。

沖田は、昼間土方にバズーカをぶっ放した時とまったく同じきょとんとした顔で立っている。
目に眩しい、まっ白な夜着で。

ぎゅうと胸に何か小さなものを抱えているが、良く見れば馬鹿みたいな色合いの枕だった。
とことこと夜具の傍まで来て土方の枕をぽいと投げ捨てると、水色とピンクで構成されたイエスノー枕のピンクの方・・でかでかとハートマークが描かれた面を上にして置いた。
それからよいしょとこれは小さな声を出して夜具をめくり、仰向けできっちり真ん中に収まってしまった。

「い・・・・・」

『YESだ・・・。』

『これは・・・これは世の中の男どもが丸一日仕事で疲れて帰って来て、早く寝たいと思っている時に「YES」だったらどっと疲れるあの・・・イエスノー枕のYESだ!!』
かわいい恋人のえっちOKの意思表示に、頭がくらくらする。

「そ・・・総悟・・・あの、な」
土方が慎重に声を掛けると、沖田はくりんと首だけをこっちに向ける。
まさか、誕生日には俺をあげるなどというベタなノリなのだろうか。しかしそれなら今日は遠慮したいし、なによりいつももらっているものだから特別感が全くない。

「た、誕生日プレゼントなら、昼間にタップリもらった・・よな」
沖田の愛情の裏返しなら誕生祝いに盛りに盛って頂戴したばかりだ。これ以上どうやったら気力が出るというのか。

「あんなん、誕プレじゃねえです」
ピンクのYES面の上に小さな頭をチョコナンと乗せたまま土方を見上げる。この愛らしさは罪ではある。己を奮い立たせて務めを果たすべきだろうか。
「お前を、くれるってのか」
「そんな気持ち悪ィことしやせんよ。今日はね、特別でさあ」
「なにがだ」
土方が問い返すと、きっちり布団に入っていた沖田がむっくりと起き上がった。
「今日は、今日だけは、アンタに、死ねって言いやせん」
「言ってたじゃねえか一日中」
「アレは今日の夜の分を先にまとめて言っただけで、こらから明日までは絶対言いやせんよ」
先払いしておいて、果してそれは言わないことになるのかどうかわからないが、命の危険が無いならそれはそれで良い。
こうまで言われて抱かないわけにはいかない。むしろむくむくと性欲が頭をもたげて来た。沖田にしては素直で可愛い態度なのでつい絆される。

沖田がなんだか少し哀しそうな顔でこちらを見ているのも胸がざわついた。
白い顎を指先で捉えて上向かせると、紅を引いたように色付く唇に欲情してそっと吸い付いた。

沖田が目を閉じたので自分も視界に蓋をしてゆっくりと唇を味わう。
最後に見た、沖田の髪と同じ色の睫毛が小さく震えていた記憶と共に口内を貪った。舌で歯茎を撫でてやるとすぐに降参して歯を開く。
ちゅ、ちゅ・・と角度を変えて口付け舌を絡めていると、思わず後頭部の髪を掴んで強く引き上向かせて征服したくなる。が、土方はどうしても沖田を荒々しく扱う事は出来なかった。

「ん、土方・・・さ」
「総悟」
薄く目を開けると、乱れた裾から覗く沖田の白い腿が、土方の目を射った。性急に前を割って沖田の左腿をまさぐりながら口づけていると、沖田の意外に冷たい指先が征服者の首筋に触れた。
ヒヤリとしたが土方の想像するような触り方ではなく、官能的な動きで両手がうなじに回されて沖田の方からより深く口付けてきた。
たまらなくなってそれでも沖田が頭を打たないように気遣いながら押し倒したところでさっきの馬鹿馬鹿しい枕が目に入って、左手でつかんで余所へ放り投げた。

沖田の反応を愉しみながら、両足を開かせて間に割り込む。
この少年の身体は知り尽くしていた。どこをどうしてやれば乱れるか、声をあげるかすべて解っている。
沖田の好きなところをひとつずつ愛してやって思い通り身体をくねらせるのを見て口元が緩んだ。征服欲と独占欲が満たされてゆく。
こんな沖田を知っているのはまぎれもなく自分だけだ。快感のあまり土方にしがみついてくる身体を愛しく思いながらやわらかな尻を膝の上に抱え上げる。
ふと、沖田の潤んだ瞳と目が合った。

「ひじかた、さん」
「どうした」

「あした、別々ですよね」
「ああ」
ローションでたっぷりと解した後なので、沖田の秘部はいつでも土方を受け入れる準備ができている。土方は沖田の入り口に己を擦りつけて固さと質量を上げた。

「あっ・・あ、ひじ、かた・・さん」
「どうした、もう欲しいのか」
「土方さんっ・・地方、討伐・・はっ・・何があるか、わかんねえからっ・・俺、がいねえとっ・・アンタは弱いから・・」
「なんだ、それもサービスか。急に可愛らしいことを言いだして」
ずぶりと沖田の中に侵入した。途端に耐え難い圧迫と快感が土方を包む。
「ひああっ、やあっ・・」
「ン、ン‥奥まで挿れるぞ」
「んああ・・や・・ひじ・・か・・」
「総悟」

「死なねえで、ひじかたっ、さん」

どきりとした。

沖田は「死ね」と言わないとは言ったが、まさかこんな言葉まで出てくるとは思っていなかった。
あまりのことに、また何か沖田が企んでいるのかと思ったが、薄桃色に染まった目尻に溜まる涙を見て本気だと悟った。
「なんだ、俺が死ぬわけがないだろう」
「いや、死なねえで、死なねえでっ土方さん!」
「どうしたっていうんだ」
「おねがいっだから・・・」

聞いたこともないような沖田の泣き声と喘ぎの混ざった懇願に、嫌が上でも熱が増した。
いささか乱暴に沖田を揺さぶってしまったが、沖田はとうとう営みが終わるまで、同じ言葉を繰り返していた。





「総悟」

まだ熱の残る褥で、土方は恋人の名を呼んだ。
終わったあと、沖田は大抵疲れて眠ってしまうのだが、今日は気だるげにゆっくりと目を開けた。

「総悟」
もう一度呼ぶと、全身に絶頂の余韻を纏った沖田が口を開いた。
「なんですかい」

「おまえ、なんでまたあんなこと言ったんだ」
聞くべきではないかもしれなかった。

「あんな、こと」
「いや、し、死なねえでくれとか・・ンな可愛らしいことお前の口から聞いたことなんてねえからよ」
「きょうは、特別だって言ったでしょうが」
「フ、今日と言わず毎日そうだといいんだがな」
「ンなわけないでしょうが」
「そうだろうな」
枕元の煙草に手を延ばそうとして沖田に睨まれる。
一仕事終えた後は一服したくなるのがスモーカーの性だがここはぐっと堪えた。

「俺ァねひじかたさん」
隣に寝ている沖田がごろりと向きを変えて背中を見せる。どうしかしたかと思わず顔を覗き込んだ。

「俺ァいつもアンタに死んでくれって思ってやす」
左の頬を敷布につけて寝ている沖田の横顔は、ぴったりと閉まった障子をまっすぐ見つめている。
だが、木枠と障子紙で構成された建具を見ているのでないことくらい土方にはわかった。

「だけど今日のは、俺の芯からの願いです」
今日の、というのが一体何を指しているのかも解る。沖田がらしくない声で訴えた、「死なないで」という言葉だ。

「アンタが死んであの世へ行ったら、今度こそアンタは姉上のモンでさ」
「なんだと」
「姉上はあっちの世界にたった一人ぼっちです。土方さんが生きている間だけ俺はアンタを姉上から借りていやすけれど、アンタが向こうへ行ったら姉上に返して差し上げるのがほんとうなんです」
「何を馬鹿な事を。俺はお前のものだ。これまでもこれからも生きていたって死んだって」
「違いやす、そんなあんまりひでえことは俺にはできねえ。姉上にアンタを返してあげたくて、俺は毎日アンタを姉上の下へ送ってやろうと命を狙っているんです。だけど」
「総悟、俺の顔を見ろ」
ぐいと肩を引いて沖田の身体の向きを変える。
沖田は泣いてはいなかったが、なにか強い意思に突き動かされて覚悟を決めたような顔をしていた。土方の方を向かされたのを嫌ってか、むくりと起き上がる。

「だけど、俺ァどうしようもねえ屑野郎で。あれだけ毎日死ね死ねって言っているくせに、俺のほんとうの心はアンタに死んでほしくねえって、姉上に返したくねえって・・・そう、思ってるんです」
「総悟」
「だから今日のは土方さんへのプレゼントなんかじゃねえ、ただ俺のほんとうの本音を今日だけは言いたかっただけなんです」

土方はどうしようもないいじらしさが身体の奥底から湧き上がるのを感じて、布団から起き上がると沖田を強く抱きしめた。

「おまえはずっと、そんなことを考えていたのか」
「アンタなんて死のうがどうしようがかまわねえ。昔からほんとうに死んでくれって思っていやした。だけど、だけど姉上が亡くなっちまってから俺ァアンタに死んでほしいと願う意味が違ってきてしまった。俺ァ・・俺、は」
「総悟!」
もう何も言うなと背中を撫でてやった時、土方の肩越しに沖田が文机の上の時計を見た。
「あ」
「あ?」
「土方さん日付変わりやしたよ、誕生日終了ですね」
「なんだ?」
「いえね、誕生日終わったんでバズーカ取ってこようかと思って」
「・・・」
ケロリとして土方の顎を押しのけて離れる。ついさっきまであれほど淑やかな艶を持っていたのにあれは演技だったのかと思うほどだった。
「てめえ誕生日が過ぎた途端元通りかよ」
「はあ、昨日は特別って言ったじゃねえですか」
「チッ」
盛り上がった気分が削がれてしまって一度我慢した煙草に手が伸びる。
すいと立ち上がった沖田がちらりとそれを見て、夜着を直しながら廊下に出ようと床を離れた。
「なんだ、朝までいねえのか」
「いえ、昨日の誕プレは結局俺の為だったもんですから、ちゃんとした誕プレ用意してますんで持ってきまさあ」
「一体何段仕込みなんだおまえのプレゼントは」
「待っててくだせえ、ベタですけど犬のエサでさあ」
それだけ言うと沖田はまだ夜は冷える廊下を裸足で台所の方へ歩いて行ってしまった。

一人残された土方。正直この時間飯など食う気もしなかったが、「昨日の誕プレは俺の為だった」という沖田の言葉を思い出して、あれはやはり演技ではなかったと思うと結局いじらしさが勝った。
仕様がねえ食ってやろうと思っていると、とすとすと足音がして沖田が戻って来た。
何事も無かったような顔で大きな椀をことりと文机の上に置く。
「さあどうぞ土方さん、ちいと遅れちまいやしたが、誕生日おめでとうごぜえやす」

「っておまえこれ・・・」
土方が咥えた煙草をぽろりと膝に落とした。

目の前にはホカホカとした・・・ドッグフード。
「これ本物の犬のエサじゃねえかああ!」
「アッ、暴れねえでくだせえ、ひっくりかえっちまう!ちゃんとビタ○ンとぺディ○リーのウェットを混ぜておいしくしてあるんですから!」
「うるせえふざけんなあ!」
「そうおっしゃらず、特別に今日はアーンしてさしあげまさあ、ハイ、あーん」

本当になんの悪気もなさそうな間違いなく愛くるしい顔でスプーンを持って首を傾げる沖田。

土方は早くも来年の今日のことを考えて、激しい恐怖を覚えるのであった。


(おしまい・ハピバスデひじい)
























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