年またぎの恋  H.26/01/05


(土沖)クリスマスとお正月をもういっぺんにやってごまかします。












沖田は貧乏が嫌いだった。
だがそれ以上にクリスマスが嫌いだ。
厳密に言うとクリスマスは好きなのだが、自分の家のクリスマスが嫌いなのだ。

沖田の家は、正月に飾る羽子板を作って全国に出荷している。しめ縄なども手掛けているが、先代までは材料の稲を主に生産していた農家だった。田の担い手不足で土地を売り、細々とやっていた羽子板を商売のメインにするために工房を建てた。
年内の最終出荷は31日なので、この季節は生産の追い込みに入っている。
もちろんクリスマスどころではなく、もれなく毎年沖田自身も羽子板作りを徹夜で手伝わされていたのだ。

「あーあー。世間はクリスマスですぜ。夜通しゴリゴリやってちゃあサンタさんもどうやったってこっそりプレゼントを置いて行くなんて芸当できやしねえ」
もくもくと作業する工房で沖田がいつもどおり文句を言いだした。

「こんなモリモリの羽子板で羽根付きなんかできるわけねえっつの。お飾りだかしんねえけども、羽子板に生まれたからには立派に本来の仕事を全うしてえよなあ」
主に言っても仕方のないことをぶつぶつとつぶやいては手を止めている。

「ねえねえひじかたさァん、アンタさっきから休憩もしねえでもくもくと作業しちゃって、つまんなくねえんですかい」
沖田はひとり遊びにも退屈して、隣で集中を続けている土方の邪魔を始めた。

「黙ってやらねえとまたおやっさんに怒鳴られるぞ」
ぼそりと返事をして、緋色の総絞りで綿をくるみ何百個もの襟のパーツを作り続ける土方。
先代の建てた工房は薄暗く隙間風も入る為、真ん中にストーブを置いて皆厚着をして作業している。
土方もタートルネックのセーターに黒いダウンベストを着込んで、指ばかりは細かな誂えが必要なので素肌のまま。
「ほら、指先が真っ赤じゃあねえですか。ちょいとサボってデパートへでも行きやしょうよ。そいで3DS買ってくだせえよ」
「デパートなんぞもう閉まっている」
にべもなく言い放ち、指についた糊の乾いたのを擦って落とす。

「いいじゃねえですか。コンビニなら開いてやすよ、ちょいと行ってプリペイドかなんか金目のモン俺にくれりゃあいいんですから。ね、俺だって一度くれえクリスマスプレゼントってやつがほしいんでさあ」
甘えるように言ってみるも土方はもう返事をしない。
沖田はこのむっつりとした年上の従業員をじろりと睨みつけた。

土方は、沖田が8つの頃に見習いとして入ってきた少年で、当時15だった。
最初から無愛想で、それでも給金の安い職人見習いのすぐにやめてしまうのとは違って、よく続いた。
沖田などは土方さんなんて羽子板の娘と付き合っていりゃあいいんでさと馬鹿にするが、職人どもや沖田の父親である親方はその素質を認めている。
真面目にこつこつと8年やって来て、そこそこ大切な工程はまかされるようになっている。もう10年やればもっとも大切な女の顔、面相の筆を入れる職人になるだろう。
対して沖田は一応の跡取りでありがならいくらも仕事に身を入れず、無論職人としての腕も上がらなかった。親方もこいつは駄目だと言って、むしろ外から来た土方を可愛がった。

沖田としては別に家業が嫌というわけではないが、とにかく小さい頃にクリスマスのプレゼントをもらえなかった恨みがある。
友達は皆もらっていると言うと、「馬鹿野郎、忙しくてそんなもんやってられるか。羽子板やってる家のガキが何言っていやがる」と怒鳴られた。父親は、羽子板の売れ行きが悪くなったのはゲームや外国の文化のせいだといつも言っている。
以来沖田はどうしたって伝統工芸というもの自体虫が好かなくなって、「なんでえ、よその文化も取り入れられねえようなケツの穴のちいせえ家業なんかやめっちまえばいいんでさあ」と不貞腐れるようになった。

「しっかし土方さんは無駄に集中力ありますよねえ。ホントそんな馬鹿みてえに修行してどうする気なんですかい。アンタまさかひょっとしてここを乗っ取ろうとしているんじゃあねえですか」
土方が相手をしないので沖田はとうとう嫌がらせに絡みだしたのだが、土方は目の前の綿を成形する手を止めない。
「こんなつぶれかけの工房乗っ取ってどうするっていうんだ」
「アッ!しようもねえ職工のくせになんてこと言いやがるんでえ!てめえ生意気だ!俺が親方になったらてめえなんざ一番にくびにしてやらあ」
「なれるわけないだろうが、お前みたいななまくらの根性悪が」
がん!と音を立てて沖田が土方の椅子を蹴った。
「畜生、当たり散らしてやるう」
土方の目の前の着物地、綿やら工具やらが沖田の手によってあたりに飛び散らされた。
「なんでえこんなモン、いくら作ったってもう買う輩なんかいねえんだよ!」
ばたばたと暴れまわる沖田の手首を土方が掴んだ。
はっとする沖田を引きずって作業場を出る。工房の出口で後ろを振り返って数人の職工どもを呼んだ。
「おい、てめえらも来い」
「えっ、いいんですか土方さん」
「親方は金策でいねえからな、小一時間休憩挟んだって問題ねえ」
若い職工が3人立ち上がって、ただ1人60に乗った古いのだけが手を止めず目を土方の方へやった。
「あんまり手荒にすんじゃねえぞ」
フンと鼻を鳴らして土方は暴れる沖田をぐいと引っ張って外に出た。
「なにすんでい、サボる気かよ土方ァ!」
土方はもう、沖田が何を言っても返事をしなかった。
底冷えのする中庭を通って母屋の引き戸を開けると、ちょうど炊事場から顔を出したミツバと目が合った。
「あら十四朗さん、どうかなさって?」
白い割烹着をつけた沖田の姉、ミツバは職工たちの憧れだ。おっとりとした美しい容姿で土方の顔を見た。
「奥の部屋借ります、梱包の場所足りないんで」
「姉ちゃんたすけてくだせえ!ころされる!」
「総ちゃん、十四朗さんのいう事良く聞いてね」
うふふと笑ってミツバは台所に消えた。母屋に羽子板の在庫など置いたことが無い事実も気に留めない。

「きゃあー、おねえちゃん!たすけてくだせえ!」
沖田の叫びは空しく廊下にこだまする。
ずるずると土方にひっぱられる沖田とその後をついてゆく職工ども。
土方は母屋の一番奥の部屋に沖田を放り込んだ。
普段使われていない為、古い畳の匂いがするこの部屋は、蛍光灯が切れていて薄暗い。

「いたあっ、放してくだせえよ!」
「やかましい」
土方がドンと沖田を畳に押し倒した。顎でなにやら指示を出すと、万歳をしている形の沖田の頭側に一人が回った。
「失礼しますよ、総悟さん」
大の字になるように両手を広げられて、その腕を膝に挟みこんで緩い胡坐をかいて腰を下ろされた。両腕がまったく動かせなくなって、自然頭が男の股間あたりに置かれる。
後頭部で股間を殴打してやろうとしたが、沖田を見下ろす土方の視線に気づいてはっとした。

「てんめえ」
「良い恰好だな、総悟ぼっちゃん」
土方は別の男に蛍光灯を取りに行かせると、ゆっくりと沖田の腰の上に跨った。
「くそ、重ェ!百貫でぶ!どきやがれィ」
ぎゅ、と土方に鼻をつままれた。
「ひてえ!ひてえよ!おもきし力いれやがってくそっ!」

「総悟ォ、お前そんなにクリスマスがやりてえのかよ」
「・・ったりめえだろ」
「クク、ガキだな」
沖田のセーターと中に着ているパーカーが、土方の手によってめくりあげられた。
「ヒッ・・・さ、寒いでさ!おろせ!おろしやがれィ!」
薄い色の肌に、さっと鳥肌が立つ。二つの胸の突起は薄桃色だが、寒さの刺激でふくりと芯が通った。

「メリークリスマスだ、総悟」
土方の指には輪ゴムが二つ。
羽子板の出荷に使う紙箱は厚さが無く蓋が外れてしまう為に輪ゴムを掛ける。最高級品の羽子板は木箱に入れられるが、それ以外はすべて同じ地味な紙箱だった。輪ゴムの色で中の羽子板の種類を識別する為、倉庫にはいくらでも色のついた輪ゴムがある。
赤い輪ゴムと緑の輪ゴム。
「良い子でシコらせとけよ」
土方は、それぞれの輪ゴムを左右の乳首にゆっくりと巻きつけた。
「いてっ、いてえ!やめろ、変態!」
ぱちん、と音をたてて最後まで巻ききった時、沖田が小さな声を出して身体を震わせた。
「どうしたァ総悟ぼっちゃん、感じちゃったか」
「ひぅ・・・・ん、いてえ・・・」
哀れなほどきつく輪ゴムで締め付けられた乳首が健気に震えている。
赤と緑で彩られ、聖夜にふさわしい配色になった突起のてっぺんに土方が人差し指をそっと乗せた。
「ひいっ」
もっとも敏感な部分に、糊で荒れた土方の指先がひっかかりながら前後する。
信じられないことに、締め付けられ優しく撫でられたそこから言い表し用の無い快感がずくずくと沖田の身体を駆け抜けた。

「気持ち良い顔をみせてやれよ、こいつらに」
「やっ、やあん!」
「さんざんお前にいじめられてきたんだ、お前の恥ずかしいところを見てえってよォ」
どこから取り出したのか、ケーキに飾り付ける小さなツリーを沖田の胸の輪ゴムに挟み込む。
「ハハッ、かわいらしくなったじゃねえか」
「やあんっ、変態!へんたい!!」

ずるるんと土方が沖田のフリースパンツを脱がせると、その下にデニムがきっちりと着込まれている。
「チッ」
面倒臭そうに舌打ちして、暴れる沖田のジーンズをぐいぐいと下げると下着も一緒についてきた。
「ケツ出せケツ」
「いやあっ、見んなハゲ!」
「誰がハゲだ」
「おいお前らコイツのケツの穴じっくり見てやれ」
「やああっ、やだっ!やめろマヨハゲ!」
「なんだと」
「雀の涙みてえな給金でてめえがマヨ買って夜な夜なチュッチュチュッチュ吸ってやがんのは知ってんでえ」
「今日はお前のケツの穴吸ってやるよ」
「ひいっ」

横にいたもう一人の男が身を乗り出した。
「土方さん、俺にも見せてくださいよ」
「きゃああ、やだっ!」
「やだじゃねえよ、これは仕置きだ。うちの若ェのでおまえをぐりんぐりんマワしてやるんだよ。良いクリスマスだろう?」
途端に沖田が大きく暴れ出した。自由になる下半身をびちびちと跳ねさせる。

「いやっ、お願いでさあ!」
「ああ?お願いも糞もねえだろうが、てめえの悪行の報いだ」
「いやいやっ、他の奴らはいやです!」
「なに」
「土方さん以外のおとこに見られるなんて、我慢できねえもん!」
「なんだと」
「えーん」
ほんとうに沖田の目から涙がこぼれて土方が怯んだ。

「うううっひぐひぐ」
「おい、てめえら仕事に戻れ」

沖田の手を押さえていた男と今にも尻を覗きこもうとしていた職工、そして今まさに蛍光灯をつけ終わったもう一人の動きが止まった。

「そりゃ無いですよ土方さん」
「ああ?なんだ、文句あんのか」
土方の悪魔の一睨みで男たちは黙った。所詮この手前勝手な男に敵うわけがないのだ。
哀れ職工たちは、土方め親方に見つかっちまえと心の中で悪態をつきながらすごすごと仕事場に戻った。

ようやっと自由になった両手で顔を隠してしくしくと沖田が泣いている。
「オラ、もう誰もいねえんだ。いつまでも泣いてるんじゃねえ」
腹の上に馬乗りになったまま胸ポケットから煙草を一本取り出して咥え、ライターの火を近づけて今息を吸い込もうとした時に沖田が再び暴れた。
「ヤッ、やあああ!いや!」
さっきよりもひどい暴れように驚いた土方が沖田を見下ろすと、がたがたと大きく震えている。
「あんだ?どうしたんだ」
「火・・・火が・・火がおっかねえんです!」
「ああ?そんな話聞いたことねえぞ」
「たばこが・・・・!たばこが!」
「煙草?」

そういえば一服の時はスモーカーだけが裏庭にあつまって休憩時間にさっと吸うくらいで沖田に見られたことは無かった。ヤニ臭で喫煙しているのは知っているだろうが、工房は禁煙だった。

「ぐす・・・ちいせえ頃に、いたずらして親父に煙草の火を・・・」
「押し付けられたのか?」
「親父はわざとじゃねえんです。俺を叱ろうとして、それでうっかり咥えていた煙草が俺のあたまに落ちて、そいでそれから煙草の火がおっかなくなったんです」
ぐすぐすと子供のように泣く沖田を見て、立ちあがったものが萎えてしまうような気持ちになったが、これは仕置きだ。えいと己を奮い立たせてライターをしまった。
「どうだこれで怖くないだろう」
「ぐす、怖くねえです」

ぐいと沖田の足を再びひろげると、白い尻がいやいやをするように畳を左右に擦った。
「いやいやっ」
「何が嫌だ、もう何も許さんぞ」
「えーん、土方さんの顔が怖いでさ」
「なに」
「そんなおっかねえのにはじめてやられるなんざいやです」
「うるさい、もう何も許さんと言っただろう」
「うわあああん、ヤだあ!舌噛んで死にまさ!」
死なれては困るのだが、土方は別に怖い顔をしているつもりはなかった。
ただあまりに沖田が邪魔をするので10年溜まった鬱憤を晴らしてやろうと思っただけだ。

「どうしたらいいんだ」
「仕置きだなんておっかねえことを言うからおそろしいんです」
「お前が悪いんだろうが」
「ごめんなさい、もう悪いことは言いやせん、邪魔もしやせん」
「遅い」
途端身体の下の沖田がぴぎゃあと泣いた。
「ああん、そんなおっかねえの嫌です!そんなんでヤッたら一生恨んで命を狙いまさあ」
「だったらどうすりゃいいんだって言ってるだろうが!」
「土方さん俺の事すきなんですかい」
「なんだと?」
「ねえ、俺の事すきなんですかい」
「なんだそりゃあ」
「俺は、俺の事を好きじゃない土方さんに、仕置きでレイプされるなんて・・・そんなの・・」

土方は、沖田がまた鼻をぐすぐすさせたのに驚いた。
それから沖田はひょっとして自分の事を好きでそれで嫌がらせを仕掛けて来ていたのかと考えた。
まさかそこまで子供だったとは思わず、いや思ってはいたがそれではまるで幼稚園児だ。
「いやだ・・・強姦魔・・・だいっきらいでさ」
「うるせえな、わかったわかった」
「ぐす」
「嫌いでこんな仕置きするものか」
仕様がないのでそう言ってやると、涙にぬれた睫毛がしぱしぱと瞬いた。

「ケツにいれやす?」
「いれる」
「はじめてだからなんなら入れないくれえ優しくしてだせえ」
「いくらなんでも仕置きだからなこれは。それは無理だ」
「いやあん、いたっ、いてえです」
「我慢しろ」
もう土方の方が我慢できなくなっていたのでこれは無視して押入った。
痛がって暴れまくられたがサービスで善くしてやったので結果仕置きになったのかどうかわからない。

終わって土方は仕事に戻ったが沖田はそれどころではなく、帰って来た親方が総悟の奴はどうしたと言ったが誰も答えられなかった。
またいつものサボりだろうと落ち着いたが、のちに沖田があのときは土方の野郎に乱暴されて動けなかったんでさあと言いつけた。
それには土方が、俺に対する新手のいやがらせでしょうと言ったのを親方は鵜呑みにして話が終わった。
沖田は悔しがったが、結局クリスマスに二人がさぼったツケで出荷が大幅に遅れたので年末まで仕事づめでどうにもならなかった。
松の内の間は羽子板もぼちぼちと売れるので、年明けまで出荷は続く。

大みそかまで何も言ってこなかった沖田だが、土方が一服して作業場に戻ろうとすると炊事場に灯りがついていた。
のぞいてみるとお節のつまみ食いをしている沖田がいて、そのまま腕を掴んでまた奥の部屋に連れ込んで己を咥え込ませた。
ごんごんと遠くから鐘の音がきこえた時、この冷え込みの中汗だくで気を失っていた沖田がもっそと起き出した。
「ぶるぶる、寒いでさあ、土方さん年を越しちまいやしたね」
「そうだな」
「あれからどれくらい経ちましたっけ」
あれから、とは二人が追い込みの作業場から消えてからである。
「さあな、まだ一時間も経ってねえだろ」
「親父、探しにきやせんね」
「それどころじゃねえんだろ」
「アンタ、真面目だと思っていたらとんでもねえ怠け者だったんですね」
「そういえばあの日これをやるのを忘れていた」

土方がポケットから下品に光る指輪を取り出した。
「クリスマスプレゼントがほしかったんだろう?」
「おもちゃじゃねえですか」
「雀の涙の給金で本物なんざ買えるか」
シーズン以外は沖田家に住み込んでいないので、安いアパートを借りている土方。暮らしは家賃だけで精いっぱいのはずだった。
「サンタさん来るの遅いです」
「いずれ俺がここを乗っ取ってお前を養ってやるよ」
「乗っ取っても借金しかありやせんぜ」
「んなこたあ百も承知だ」

ちゅうと沖田が土方に触れてその場は収まったが、その後土方が親方に沖田のトラウマのことを聞くと、
「あいつの火が苦手なのはてめえで火遊びをしていてヤケドしたのよ、言わば自業自得だあな」
となにほども無い答えが返ってきた。

あの野郎だましやがったなと思ったが、良く考えたら職工どもを土方に追い出させたのも沖田、好きだと言わされたのも沖田の誘導だと考えればやはりなんの仕置きにもならなかったなと思った。

ともあれ土方は沖田が羽子板をそれほど嫌っていないのを知っていたので、沖田をもらう手筈になったからにはこの工房をずっと守っていかなければならないなと覚悟を決めた。



(了)
メリクリ&ハッピーニューイヤー
























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