これぞまさに珍味[1/3]
「ここがキジル海瀑だよ、ジュード君。そしてこの先がニ・アケリア」
奥にある美しい滝を思いながら、透き通る水を眺める。
うん、ここはやっぱり好きだ。
リーゼ・マクシアの中でも、一二を争うほど綺麗な自然だと俺は勝手に思ったりしている。
けど、ジュード君は浮かない顔をして立ち止まってしまった。
「村の人達に悪いことしちゃったね。よくしてくれたのに…」
「仕方ないだろ、ラ・シュガル兵が来てるんだ。逃げるが勝ちってな」
「それに、どうするか決めたのは彼らだ」
ラ・シュガル兵とはさっき俺を呼び止めて可愛いヌイグルミに食べられて大きな人にフルボッコにされていた人だよね。
…まだ来てたんだ。
知らないことばかりだなぁ。
ジュード君が指名手配されてることも知らなかったし。
ラ・シュガル兵の方々はきっとジュード君を捕まえに来たんだよね。
なら逃げて良かった。
ジュード君は優しい良い子だから、悪いことをする筈がない。
それに村の人たちだって、ジュード君のことを知ればきっと兵に突き出しただろう。
「…どうしてそうなの?」
考え込んでいると、ジュード君の珍しい声が聞こえた。
ミラさんを咎めるような言い方だ。
けどミラさんは特に気にすることもなく言ってのける。
「もっと感傷的になって欲しいのか?それは難しいな。君達人もよく言うだろう?感傷に浸っている暇はない、と」
「…使命があるから?やるべきことのためには、感傷的になっちゃいけないの?」
「人は感傷的になってもなすべきことをなせるものなのか?」
「わからないよ、そんなの…やってみないと…」
「なら、やってみてはどうだ?君のなすべきことをそのままの君で」
うーん…俺が知らないあの一晩に何があったんだろう。
話に着いていけない☆
けど、とりあえずミラさんに一票。
「感傷に浸っているのは駄目なんだよ、ジュード君。偽善を騙られて、あっという間に大切なものが奪われる」
「どういうこと?よく分からないよ、イウ」
「…仲間だって信じていても、人はそう簡単じゃないんだ。感傷に浸れば、付け込まれる。…そうだよね"アルヴィン"?」
この10年間一度も呼んだことのなかった現在の名を態とらしく口にすれば、アルフレドは顔を逸らしてしまった。
よく分からず首を傾げているジュード君も可愛いなぁ。
俺はクソ傭兵の元へ歩を刻みながら、クスリと笑った。
「俺の使命は唯一つ。なすべきことならたくさんあるけど。
それは、"アルヴィン"がよく分かってるよね?」
皆に伝わるように言い、奴の耳元に直接吹き込む。
「…何がなんでも、お前を殺すから」
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