マクスウェル様との手合わせ[1/2]
何かあったの?と訊いても、ジュード君は口を割らなかった。
よほどのことがイル・ファンで昨日あったみたい。
だから、俺は何も訊かずにいてあげることにした。
いつか自分から言いだしてくれる日を待とうと思ったんだ。
それが何年先でも構わない。
ジュード君は信じられる子だから。
イル・ファンの霊勢が終わり青空が広がるイラート海停で、思考に浸りながらジュード君を見る。
「外国っていっても、あんまり変わった感じしないね」
「海停って、世界中同じようなものだからね。機能も見た目も」
「へぇ、そうなんだ。さすがに10年も旅してるだけあるんだね、イウ」
「先生ー、ジュード君が俺を馬鹿にした気がしまーす」
元気に振舞おうとしているらしいジュード君の気を紛らわすため、俺はおどけて手を上げた。
クスクスとジュード君は笑っている。
「先生?ここにはそう呼ばれるような人間はいないように思うが…」
「あはは、ミラさんって面白いね」
船の旅で感じたことがある。
ミラさんにはあまり冗談が通用しない。
「地図があるみたい。見てくるね」
ジュード君は空元気にそう言うと、掲示板へと走っていった。
そういえば、ミラさんはニ・アケリアに行くって言ってたっけ?
なんでも四大を召喚するとかなんとか。
確かにあの村はマクスウェル様〜、みたいな感じになってたなぁ。
ジュード君、着いて行くつもりかな。
危険じゃなければいいけど…なんて無理か。
よし、なら着いて行ってとことん守ろう。
「気持ちを切り替えたのか。見た目ほど幼くないのだな」
「おたくが巻き込んだんだろ?随分と他人事だな」
「確かに世話になったが、あれは本人の意志だぞ?私は再三帰れと言ったのに」
アルフレドとミラさんが何やら話している。
…元凶はやっぱりミラさんなのか。
ちょっと気がかりだけどジュード君は優しすぎるからなぁ。
自分から面倒事に首突っ込みそうだし。
「…あ、そうだ。ミラさん、ジュード君が君に着いて行くようだったら俺も同行させてもらうから」
「構わないが、何故だ?」
「ジュード君を守りたいから」
「それは、お前の'なすべきこと'なのか?」
「…ある意味そうかも」
ならばいい、とカッコ良く決めてミラさんは地図を見ているジュード君に歩いていった。
アルフレドも、地図に向かう。
…仕方ない、俺も行った方がいい流れだね。
「二・アケリアは確かここから北だよ。確か、ハ・ミルから行くはず」
「うむ、そのようだな」
「それで?すぐに発つのか?」
アルフレドの問いにミラさんは首を振った。
「アルヴィン。傭兵というからには戦いに自信はあるのだろう?」
「ああ、そりゃあな」
「私に剣の手ほどきをしてもらえないか?」
やめといた方がいいよ、そいつ悪人。
そんなことを言う義理は無いので言わずに様子を見る。
「今の私は四大の力をもたない。この先、剣を扱えないと困難になる」
「四大…?よくわかんないけどさ、正直俺を雇ってほしいところだよ…でも金ないんだよな…」
本気で悩んでいるらしいアルフレドにため息をついた。
こいつ、傭兵…だったよね。
どうして分からないんだろ。
「この辺りなら魔物退治の仕事は多いはずだよ?」
「どういうことだ、イウ?」
「…あ、なるほど。おたく、なかなか頭回るな」
「お前に褒められても嬉しくない。むしろ寒気がする。死んで?」
船同様に常備している果物ナイフを近距離でアルフレドに投げつける。
が、簡単に避けられてしまった。
アルフレドはジュード君を指差してからニヤリと笑う。
…さすがに、ジュード君の前で人殺しをするのは良くない。
我慢、しなくちゃ。
深呼吸してから、ジュード君に笑いかける。
「きっと今日はここに泊まるだろうから、宿見に行こう?」
「うん、分かった。…ミラ、アルヴィン。また後で」
「ミラさん、剣の稽古頑張ってね」
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