天然素材100%のイブ
すっかり冷えてきて俺好みの気温になったここ最近。
何故だか街中が騒がしい。
お祭り騒ぎという訳ではないけど、 それなりに賑わっている。


「なぁディサピア。今日って何かあるのか?」

『今日?今日は特にないね、あるとしたら明日でしょ』

「明日?」

『…あ、そういえばラルディアはあんまり季節行事に興味なかったもんね。明日はクリスマスだよ、クロア』


師匠の名が出たことに驚きながらも、クリスマスという単語を頭で復唱する。
クリスマス…ある所では幸せな時間が流れ、またある所では孤独に耐える、ある意味人生について考えさせられる一日とされているあれ?


「夜中に一人で海を見に行ったり、一人でケーキを食べたり、部屋の電気を消してまるで出掛けているかのように見せかけたりする寂しい奴のイベントのことか!」

『…何?その偏屈な知識』

「師匠が言ってたぞ。なぜ祝う必要があるのか理解出来ないって。そんなもったいないことに金をかけるくらいなら研究資金として俺に寄越せって」

『あれー、ラルディアって十分過ぎるくらいリア充してた筈だけどなぁ…ああ、今はしてなかったっけ?』


よく分からない単語をいつもどおり使っているディサピア。
'りあじゅう'とはどういう意味なのか少し気になったが、訊かないでおこう。

買い物をした帰り道。
寒さに強い俺は、ディサピアと話しながら帰路をゆっくりと歩いていた。
クリスマスには大切な友達などにプレゼントを贈るものだと教えられ、適当に頷いたのを覚えている。

買った物は、新しい瓶や薬の材料。
あと、偶然会ったレイノルズに試作品を渡されたな。
確か拷問ティアラを造る手伝いをしてくれと言われた。
スイッチ一つで電流が流れ外そうとすれば致死量の電流を、とかいう恐ろしいやつだ。
使うときが来るのかは不明。

帰路を歩く中、視界に一つの店が入った。


「…ディサピア、ちょっと寄り道してもいいか?」

『構わないよ』


許可を貰い、俺は道から逸れた。

















今度こそ買い物を終わらせ、道を歩く。
俺が買ったものに対してクスクス笑いながらからかってくるディサピアは、やっぱり性格が悪い。
…こんなものを買ったのは、ディサピアのせいだってのに。

見上げた空は、灰色と言うには明るすぎる色彩。
ぼーっとしながら、ずっと空に見入っていると降っている雪が網膜を刺激して思わず瞑った。
手は荷物で埋まっていたため、雪が入った右目を数度開閉する。


「クロア、こんなところで何をしている?」

『防寒具も着けてないなんて、元気ですね』


微かな痛みが消えた頃、後ろから声が聞こえた。
リオンとシャルティエだ。
振り返れば、いつもの制服の上に白いコートを着こんだリオンが見えた。
しかも、やけにふわふわな手ぶくろにマフラー。
マフラーの端に小さくプリンの柄が入っているあたり、マリアンから貰ったものだろう。
耳当ては…うわぁ、羊柄。
あれもマリアンの趣味だろうか。
だとしたら似合いすぎてて笑いを堪えるのが大変だ。
平常心を装いつつ、リオンが胸の前で抱いている大きな紙袋に目をやった。


「リオンこそ、何してるんだ?凄い荷物みたいだけど」

「マリアンに買い出しを頼まれただけだ。お前は…また研究道具か」

「ああ。てか、そんな言い方するなよ。研究道具を買うことが悪いのか?」

「そこまでは言っていないだろう?」


フ、と鼻で笑うリオンが俺に並んで歩いた。
紙袋の中は食材が殆どを占めているようだ。
苺などの果物があるあたり、何かデザートでも作るんだろう。
プリンアラモードとか?
それならリオンが喜びそうだ。


「…何をにやけている?」

「深い意味はねぇよ」


意味有りげに返し、息を吐く。
うん、白い。
リオンの方を見れば、勿論そっちも吐く息が白い。
まあ、呼気に含まれる水蒸気が吐きだしてすぐ大気で冷やされ液体化し、水滴の表面で光が反射して白く見える訳だから白くならない方が怖いけど。


「…あー、寄り道したせいで屋敷が遠く感じる」

「珍しいな。何を買ったんだ?」

「これだよ、これ」


ラッピングされた小さな包みを紙袋の上に乗せる。
すると、不思議そうにリオンはそれをまじまじと見つめていた。


「これは…」

「プレゼント。…クリスマスって、大切な奴(友人的な意味で)にプレゼントを渡すんだろ?だから、リオンには渡さねぇとなって思ってさ」

「なっ!?///」


ん?何かリオンの顔が赤くなった?
今結構強い風吹いたからか。
寒いだろうな。

あ、それはそうとして。


「リオン、明日になったら言い忘れるかもしれないから…」

「?」


(言わないよりは、言う方がマシだよな?)






ちなみに、プレゼントはシンプルな指輪だったりします。
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