出社第1日目 [1/2]
リオンの部屋で早朝、まだ日が上り切っていない薄暗い時間帯に目を覚ました。
ソファの上で静かに伸びをし、物音を立てずに立ち上がる。
ベッドへそっと近付くと、眠っているリオンが確認出来た。
シャルティエはベッドの傍に立てかけられている。

不用心、無防備。
これじゃ、襲われてもすぐに対応出来ないな。
俺、就寝する時は必ずディサピアに手を宛てがって寝るぞ。
研究室でも宿でも。
それでも危険な場所は、剣抱いて寝るのに。
俺が異常なだけかもしれないけど。

ああ、リオンからすればこの屋敷は安全地帯なのか。
流石お坊ちゃま。
野宿暮らしの恐怖は分からないってところだな。

雑念もこれくらいにして、もうそろそろ鍛錬に励まないと。
ディサピアをホルスターに装備して静かに部屋を出た。
この程度の物音じゃ目を覚まさないのかよ、リオン。
本当、無防備だな。

静かな廊下を外へ向かって歩く。
廊下の両側に何部屋もある客室から音は聞こえない。
だけど一階に降りればメイドが慌ただしく働いていた。

起床時間には早く、けれど使用人はもう既に動き出している時間帯。
現在時刻は5時半から6時といったところ。
朝の鍛錬は何処でしよう…あと、何時間出来るだろうか。
そんな思考を頭によぎらせ歩いていると、一人のメイドが俺に話しかけてきた。


「クロア様、イレーヌ様より伝言です。『推薦状が書けたから来て欲しい』と」

「分かった。…何処に行けばいい?」

「こちらにどうぞ」


メイドはそう言うと俺をイレーヌの居る部屋まで案内した。
扉を開けると俺に入室させて、去ってゆく。

部屋はどうやらイレーヌの私室だったらしく、本棚やべッドが置かれていた。
イレーヌが座っている椅子の目の前、机を挟んだ向かいの椅子に許可なく腰かける。


「おはよう、クロア君。朝早いのね」

「いつもはもっと早い」

『無駄な対抗心を感じるのは気のせい?さっすが今を輝く14歳だね!』


ディサピア煩い。
けれどツッコんだりはしない。
マスターの資格、無さそうだからな。
いきなりツッコめば、イレーヌに俺が変人と取られてしまう。
あながち間違いではないけれど、まあ穏便に過ごしたいし。


「はい、これ推薦状よ。クロア君は優秀な科学者だって書いたから、よろしくね?あとお節介かもしれないけど、ヒューゴ総帥の屋敷に住まわせて貰えないかお願いもしておいたわ。迷惑かしら?」

「いや、助かる。けどさ、会って間もない人間にどうしてここまでするんだ?俺を疑わないんだ?」


イレーヌ直筆のサインが入った白い便箋を受け取り、尋ねた。
昨日から気になっていたことだ。
どうしてここまで信用する?
両親がここの支部長だったから?
確証なんてないのに。
…意味が分からない。


「クロア君が私のことを覚えていなくても、私はクロア君のことを覚えているから。それじゃ駄目かしら?」

「駄目に決まってるだろ。覚えているって言っても、10年前の記憶だ。10年もあれば人間は変わるだろ。俺がイレーヌの知っているクロア・ラースリントを騙ってるだけかもしれないとか思わないのかよ」

「それは絶対にないわ。あなたは間違いなく私の知っているクロア君よ。だから安心して頂戴?」


観察眼が鋭いのか、ただただ見る目がないのか。
実際俺は確かにイレーヌの言うクロアだろうから問題はないけど…本当に騙されていた場合はどうしたのだろう。

……まあいいか。
考えるだけ徒労だ。
今は衣食住と職が安定されそうなことに希望を持とう。
よし、そうしよう。


「…そりゃどうも」


曖昧に言葉を濁し、イレーヌに肯定する。
それから十数分ほど雑談をして、今日ダリルシェイドに出航するらしい船のチケットを貰った。
朝食もきっちり頂いて、コンディションは珍しく最高だ。









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