第一印象 [1/3]
あの日は、いつも以上に血を感じた。
とても沢山の殺意が、とても沢山の場所で発されていたんだ。

俺は止めたかっただけ。
それだけなんだ。
昔の惨状がまた繰り広げられて、俺みたいな破綻した人間を作り出したくなかったから。

……殺した。
沢山、沢山悲鳴を聞いた。
数えるのも億劫になるほどの生を求める声や、血を浴びた。
罵倒されても尚、俺は続けたんだ。
殺戮を。





































『この、馬鹿弟子が!!』


未だ頭の中で師匠の声が響いている。
耳には鳴り響いて止まない歓声が入ってくるというのに。


『なぜこうも余計なことに首を突っ込みたがるんだ!!』


余計なこと?
クーデターを止めようとするのは世間一般からすれば良いこと、善意溢れるステキな活動じゃないのか?
素敵という言葉に心が篭っていないことには賛同するけど。
普通の人間は、クーデターを止めようなんてしないだろうけど。

無駄に俺みたいな奴を作りたくない、この想いはいけないことなのかよ。

師匠との見解の相違からむしゃくしゃして、俺は所謂「家出」をしてしまった。
洞窟に無理やり作られたあの研究所を家とは呼び難いけど、まあ家出。

ロクに金も持たず、相棒と薬だけを手に国まで出てきたんだ。
…あの国にいるのが、気まずいっていうのもあったけど。

そんなことは置いておくとして、まあ家出だ。
つまり金がない。
最低限所持していた金も船代だった。
だからこうして船でやってきたノイシュタットで金を稼いでいる。
闘技場を利用して。

けど晶術は使わない。
今の時代じゃ目立つ技術だから。
モンスターは使っているけど…人間が使う場面を見るのはなかなかない。
同じような理由で、ディサピアも使わない。
銃なんてこの世界にはおそらくこいつしかないから。
知識としても、知ってる奴は指折り数える程度だろうし。

…まあつまり剣だけなんだよな。
俺の不得手な、剣しかない。

人を殺すことを目的とした剣術なら得意だけど…闘技場みたいな観客だらけのこんな場所で殺人なんて出来るわけない。
それに俺自身、理性としては人殺しは嫌いだ。

だから…目の前の敵に困っている。
自信家の筋肉ダルマ。
コングマンとか言ってたな。
ここのチャンピオンらしいが、武器は持っていない。丸腰。

体術を用いて闘うんだろうけど…なんか、剣を使って闘うのはズルい気がして止まない。
だからって俺も体術だけにすれば即負けることは目に見えてる。
…正直俺力無いし。


「どうしたものか…」

『オリジナルの僕なら体術だけでも充分だろうけど、クロアは力ないしねー。苦手な部類じゃない?』


力学はしっかり頭に叩き込んでいるから、別に奴の力を分散させれば済む話だけど…あんな筋肉ダルマを触りたくはない。

そんな我儘を抱き、俺はコングマンの攻撃を鞘越しの刃で受け止めていた。


「どうしたガキ!?俺様に怯んだか!?」

「んなわけないっての!」


たく、加減してやってるってのに調子に乗りやがって。
うーん…まあ、こいつなら頑丈そうだし別にいいか。


「ディサピア、デカいのいくぞ」

『了解。待ってました〜』


一言、相棒に合図。
そしてコングマンが前のめりに殴りかかってくるのを利用して俺は跳んだ。
奴の頭に手を置いて、奴を倒れさせて距離を取る。
計画通りに進めば詠唱を開始する。


「沈んだ先は混濁の地」

『憤怒の撃鉄喰らっちゃえ☆』

「『ピコピコハンマー!!』」


声を合わせてディサピアを振り上げれば、コングマンの1.5倍ほどありそうなピコハンが降る。
それがコングマンを押し潰して、消えた。
…うん、気絶しているように見える。


「チャンピオンは、挑戦者クロアだぁぁ!!」


闘技場に響き渡る歓声。
そのあまりの音量に耳を塞ぐ。
そして、控え室へと歩き出した。

これで今日の宿は余裕で取れるな。










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