ぶくぶくと生まれては消える眞白な泡に肩を埋める。生まれた端から消えていくそれはLEDの鮮やかな白に照らされてきらきらと輝いている。隣で身体を流す男の髪の感じと、それはよく似ている気がした。

「スク、また傷増えたね」
「あ゛? ……あぁ、ちょっと前に戦り合った剣士のヤツだな」
「強かったの?」
「いや、ソイツより刀が結構な業物でなぁ」
「ふーん、痛そ」
 言って、ついとその白い肌を人差し指でなぞった。「う゛ぉ゛っ」間抜けな声。どうやら擽ったかったらしい。「やめろ」「あべっ」勢いの強いシャワー口を向けられて前が見えなくなった。
「なまえオメェ、もうちょい色気のある声出せねぇのか」
「お生憎様、お湯も滴るいい男なスクには勝てないわ」
「言ってろ」
 ふん、と鼻を鳴らしてスクアーロは再びシャワーの向きを自分へと戻した。比較的新しい傷跡のところは少し避けているのが見えて、忍びに安心した。

「ね、髪、洗わせてよ」

 ふと思い立って私は、そう提案する。さーーー。シャワーの音の合間に彼はきちんと聞き取ってくれたみたいで、あまり大きくない瞳孔を点のようにさせて私を見た。が、すぐに無言でシャンプーボトルを手に取ってこちらへ差し出した。
「あら素直」
「わりぃか、やらせねぇぞ」
「うそうそ。こっち、来てよ」
 私はざばりと浴槽から出てその縁へ腰掛けた。スクアーロは私に背を向けてその長い銀髪を流してくれた。

「……きれいだね」
「聞き飽きた。それにそういうのは男に言うもんじゃあねェよ」
「うん。でも、そう思うもの。仕方ないよ」

 たまに、非番が重なるとこんな時間があって、一緒にお風呂なんて入ったりして、スクアーロの自慢の髪を洗わせてもらえる。幸せだと感じた。きれいだと思った。それからさっきまで自分が浸かっていた泡が重なって、瞼の奥でそれはぶくぶくと音を弾ませて消えていった。

「おい、手、止まってん…ぞ、」

 スクアーロの抗議の声が消えた。
 私を見上げようとして持ち上げた顎を取り、形の良いその唇に私はキスを落とした。なぜかはわからないけれど、そうしたかった。

「……なんだ、もしかしてオレは誘われてんのかぁ」
「違うよカス」
「う゛ぉ゛ぉ゛い……クソボスの真似はやめろ」
「あ、クソボスだって、明日言ってやろ」
「だから、やめろボケェ」

 苦い顔をした彼と反対に笑う私。もう一度、次はゆっくりと唇を重ねた。泡立てたシャンプーが微かに混ざって、私たちはたぶん、一緒に眉をひそめた。

「……おいしくな」
「ったりめぇだろぉ! もうやめだ、早く洗い流してベッド行くぞ」
「やだよゆっくりしようよ」
「なんだ、スローがいいってかぁ? 生憎だがそれは多分無理だな」
「馬鹿、なんの話してんのよ」

 キュッと、蛇口を捻って勢いよくシャワーを浴びせる。不意打ちに攻撃を食らったスクアーロはうるさいくらいがなり立てて、その声は浴室いっぱいに木霊した。
「もううるさいなぁ」
「お前がいきなりお湯ぶっかけるからだろうが!」
「いーじゃんお湯も滴るいい男」
「今日二度目だそれ適当か!」
 言いながら、私からシャワーを奪い取った彼はさっさと自分の髪も身体も改めて洗い流すと手際よくその銀髪をまとめ、ついでに私の身体も流して抱えると、一緒に浴槽いっぱいの泡のなかへ沈んだ。

「あれ、ベッドじゃないの?」
「……こっちがいんだろう」

 後ろにある逞しい胸に頭を預けると、じゃれるように耳やまぶたを甘噛みされて、少し冷えた肩をするりと撫でられた。
 それからぶくぶく、ぶくぶくと生まれては消える泡をすくっては潰し、すくっては潰し、あぁなんて、なんて。

「しあわせすぎてどうにかなりそう」

 囁くように言った瞬間、さらりと目の前をきれいな銀髪が流れて、今度はスクアーロからのキスが降ってきた。



しあわせにつかる


 ほんとはふあんなんだ。このあわみたいにいまあるしあわせがきえていくのがふあんなんだ。でもそんなわたしのきもちをくみとるかのようにあなたはやさしいえみで「だいじょうぶだ」なんていうの。そのおとはまたあたらしくうまれてくるあわとおんなじおとで、あぁそうか、きえるならつくりつづければいいんだ、なんて、あついきすのあいまにあたまのどっかはしのほうでひらめいてだけど、だけどそれもまた、きえた。きえたんだ。ねぇ。

すべてはうたかたのゆめ






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突発的に鮫といちゃついてみる。
170117


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