春眠暁を覚えず。昔の人は的確に言い表したものだとなまえは思う。それ程までに春の陽気は心地よく、陽が昇り切った今も彼女はベッドから出られずにいた。

「なまえちゃーん、朝だよー」

 軽快なノックと共にファイの声がドア越しに聞こえた。なまえはうーんと間抜けな唸りを返す。入るよー。間もなくがちゃりと開いたドア。

「またなまえちゃんが最後だよーう」
「うーん…」
「ほら起きて、朝ごはん冷めちゃうよ」
「んー…」

 ふわふわとしたファイの声はなまえの頭を右から左に流れる。やわらかな寝台のぬくもりに引き摺られながらも多少の申し訳なさがなまえを駆り立てて、彼女はもそもそとブランケットの隙間から顔を覗かせた。同時にファイが、閉じられていたカーテンを引き朝の陽光を部屋に取り入れる。

「何時…」
「んーと、もうすぐ10時」

 ほら、起きて。ベッドの淵に腰掛けてなまえの頭を優しくたたくファイが眩しい。彼の金の髪が太陽の光を受けてきらきら、きらきらと輝いていた。

「ファイ、」

 まだまだ夢見心地ななまえがファイを呼ぶ。その声はとろりと溶けて頼りなく、彼は首を傾げてん?とゆっくり続きを促した。


「ファイは、…きれい、だね」


 なまえが微笑った。ファイが息を呑んだ。窓の外でちちちと、小鳥の鳴く声がした。


「……ありがとう」


 一拍置いて感謝を述べたファイの、笑ったその顔にちくりと胸が痛んだ。細まる目元、伝う声はいつものそれと同じなのに、何故だろう。わからないけれど。
 なまえは霞む視界で捉えた違和感に何処か確信めいた危険信号をキャッチして、ファイの頭をぐいと引っ張った。

「?! ちょ、なまえちゃん?」
「ファイも、寝よう、うん」

 ふわふわ宙ぶらりんななまえの思考では、その違和感がなんなのかまでは考えることは出来なかった。取り敢えずこの素晴らしい陽気にファイも一緒に絆されればいいと、彼女は思った。
 ファイは幾らか抵抗の色を示したものの、依然として離す気のないなまえを見て観念したのか、ごそごそと寝る体勢に入りだした。なまえは安心したように瞼を下ろす。ファイの髪はあたたかくやわらかで、まるでひだまりに触れたような、そんな印象だった。

「……ありがと、」

 ファイと朝陽のぬくもりに意識が沈んでいく中で、遠く聞こえた彼の声。さっきとは違ってお腹がむずむずするようなくすぐったい気持ちになったなまえは、微かに口角を上げて応えたのだった。






(おいもう昼だぞ――…って、)
(ファイとなまえ仲良くおねんねだー)
(起こさないでいた方がいいでしょうか)
(ふふっそうね、ふたりとも気持ちよさそうだし)








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 ちょっと切なくてほっこりする季節。

 140404


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