例えそれが1年に一回でも、染みついた習慣というのをヒトは忘れないらしい。
 3月14日。スモーカーの誕生日の朝。毎年大地を揺るがすかのごとく響いていたなまえの強烈なラブコールは今年、正午を過ぎても起こらなかった。



「何かと思えばこの有様かお前、情けねェ」

「いやーでもこのなまえ感激です、驚愕です、まさかスモーカーさんが心配して来てくださるとは!!」
「やめろ話すな耳障りだ」
「ひどい」

 ひどい。そう訴えたなまえの声はまさに酷いもので、掠れて使い物にならずにいた。

「…どうしたんだその喉」
「敵の毒にやられちゃいました。喉以外は治ったのですがたしぎさんから『絶対安静』としつこく言われて、ならせめてこれだけでもと私室での事務処理を許してもらいました」
 さらさらと紙にペンを走らせる姿は慣れたもので、おそらく2週間、いやもう少し長い間、この生活スタイルでいたのだろうとスモーカーは感じ取った。
 けれど。
 なら、なおさら。

「なまえ、どうしておれに、報告しなかった」

「………」

 葉巻の煙がスモーカーの視界を覆って、彼女の顔を烟らせた。身体が驚く程冷たくて、感覚がなくなったようだった。ぐっと、横にぶらつかせていた手を強く握るときちんと言うことをきいたので、彼はその手で葉巻の火を握りつぶした。

 白煙が霧散するまで、数瞬。
 先よりいささか明るくなった部屋でなまえは、まあるい目をキョトンとさせて後、ふたたび紙にペンを走らせる。

「だってスモーカーさん優しいから、こうしてすぐすっ飛んできて心配してくれるって思ったから」

「それがわかっててなお報告するなんて、私の意に反するんです
 そんな、弱い女になりたくないんです」

 それからにこりと笑んだ顔はスモーカーの知っているなまえではなかった。
 初めて見る人間のそれだった。
「――…そうかい」
 嫌悪感なんてものは少しも無かったけれど、別人かと見紛う程の凛と気高い笑みは見慣れずどこかこそばゆくて。


「ごくろーさん」


 そんな曖昧な、気まずい態度を気取られたくなくて彼は、椅子に座っていた彼女の、華奢な肩を一度引き寄せてその頭を撫ぜた。

「…っ」

 なまえの息を呑む気配がした。軽率だったかとスモーカーがその手をすぐに離すがそれは杞憂に終わった。
「…ず、ずるい」
 掠れた声で、泣きそうな声で、なまえはポツリと呟いて顔を俯かせてしまった。両の手で隠しきれない朱色に、スモーカーはバツが悪そうに頭を掻いた。





いつもみたくわらってベイビー

でないと気が狂っちまいそうだ






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Happy Birthday dear Smoker.
150318


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