学校中に響き渡るチャイムの音。 今日の授業はこれにて終了し、放課後へと差し掛かる。 教室を出た俺が、真っ先に向かったのは職員室。
「失礼します。」
中に入ると俺は、さっそく用のある先生を。神崎先生を一目で見つけ、彼の元へと足を運ぶ。
「神崎先生。」
「浬くん、どうかしましたか?」
「神崎先生。今、時間ってあります?」
「え?」
「数学で解らない問いがありまして。その、神崎先生さえ迷惑でなければ、また教えていただきたくて・・・。」
そして周りの人にはあまり聞こえない声で、遠慮がちに用件を話す。 すると神崎先生は、少しだけ驚いた色に顔を染める。 けれどそんなことは一切口にせず、そっと静かに席を立つ。
「いいですよ。今日は時間もありますし。」
「ありがとうございます!よかった・・・、断られなくて。」
「浬くんたってのお願いを断るわけありませんよ。それじゃあ数学準備室に行きましょうか。」
そして嫌な顔を一つ見せず、二つ返事で了承してくれた。 向かった先は、数学準備室。 普段から誰かが立ち寄る場所ではなく、自分のクラスでやるより静かで集中しやすい教室。 けれど今日に限ってー・・。
「!」
「!!」
「・・・・・・。」
俺のクラス担任の男性教員と、見覚えありまくる違うクラスの男子生徒が先取りしていたのだった。
「あわわっ。神崎先生に錦くんじゃないですか!?ど、ど、どうしたんです?こんな場所に。」
「・・・・・・。」
何かを必死に誤魔化そうと、イソイソする担任。 そしてもう一人は極力こっちを見ないように、背を向けたままでいる。 『どうしたんです?』は、まさにこっちの台詞である。 どうしたんです?またこんな場所で。ナニをしていたんですかー・・って。
「・・・か、浬くん?他の場所に行きましょうか。」
そんな2人を見て、さすがの神崎先生も状況を把握したのか。 表情をカチコチに固まらせたまま、クルッとUターン。
「えぇ、そうですね。」
それに合わせ、俺もクルッとUターン。
「待って!お待ちなさい!神崎先生!!」
「神崎先生。オレらに変な気を遣う必要なんてないですから、どうぞ中に!」
「いえいえ、どうぞごゆっくり。お邪魔致しました。」
「・・・お邪魔しました。」
「あぁぁ、錦くんまで。待ってよ!待って!待ってってば〜!」
同僚と理事長の孫に、不祥事を目撃されたせいか。 担任と違うクラスの男子生徒は青ざめた顔色で『待って』を繰り返す。 けれど何言われても2人は振り返ることなく、数学準備室から遠ざかって行く。
「ゴホンッ。す、数学準備室は使えなさそうですね。」
「・・・そ、そうですね。」
(ひどい既視感・・・。)
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