翌日の放課後。 自習室に向かっていた途中で、福原とバッタリ遭遇。 ここ最近、生徒会の方が忙しかったようで、偶然とは言え、こうして会うのも久しぶり。
「嬉しいな〜。こんなちょっとした時間で浬に会えて、しかも抱きつけるなんて。」
「福原さん、ちょっと・・・っ。こんな人目が付くような場所で抱きつくのやめ・・・っ。やめろバカ(小声)。」
抱きついてきた腕を思いっきり抓って回避したが(もちろん周囲に他の人がいないことを確認した上で)、こんなやりとりも久しぶり。
「いてて・・・、もう素の浬はつれないなー。それより今日もこれから自習室?」
「まあ・・・。」
「頑張るね〜。テスト終わったばっかりなのに。」
けど俺のこれからの予定を聞いて何を思ったのか。 うーん・・・と少し考え込む福原。 そして心配そうに、そう尋ねてくる。
「・・・やっぱり今回のテストの結果、気にしてる?」
「・・・・・・・・・。」
しかし俺はその答えを素直に返せなかった。
「あんまり根を詰めすぎるのもよくないよ?浬。」
「・・・・・・・・・。」
いや、違う。そういう理由じゃない。 テストの結果を気にしてるか?と言われれば、冒頭で述べたとおり答えはノー。 今回は苦手な数学が特に悪かったから次までには!という思いもあるけれど、今は勉強以外したくない。 余計なことを考えてしまいそうだから、勉強することによって、それを避けていたいだけ。
「じゃあさ、浬。今日、ボクと一緒に帰ろ?で、商店街で寄り道して甘いモノでも食べに行こうよ。」
「え・・・っ。」
「浬は甘いモノ何が好き?アイス?ケーキ?クレープ?」
すると福原は、俺を気晴らせようとしているのか。 「そういう時には甘いモノが1番だよ」と、パアッとした顔で誘ってくる。
「ー・・・っと言っても、このあとまだ会議あるから。終わるまで少し時間あるけど。」
俺はそんな彼の明るさにつられたのか。 それともこの心をどうかしたくて利用しようとしているのか。 その誘いにコクンと頷く。
「って、本当にいいの?!ボクとちょっと遅めの放課後デート!」
「気晴らし程度なら、ちょっといいなって思っただけ。デートなら行かない。」
「え!?あ、ウソウソ、デートっというのはウソウソ。でも浬と寄り道したいのはホント。終わったら絶対に連絡するよ。待ち合わす場所は昇降口でいい?」
すると福原は俺の返事に、ニッコニコな顔で大喜び。 あれこれそれこれ、いきなりだったけど色々と打ち合わせて、それで互いに問題なければ決まり。 さっさと会議終わらせてくると、上機嫌に意気込んで生徒会室へ向かって行った。
そうして俺も福原から連絡入るまでは自習室へ。 ここは勉強に集中したい人向けに設けられた勉強専用スペース。 私語厳禁だから普段から静かな教室だが、テスト明けと部活動が再開した為か。ここにいるのは俺1人だけで、いつも以上にシンとした音を感じる。 どの席も机に仕切りがあるが、俺は特に目立たない隅の席に座り、いつもどおりに先ずは数学の勉強を始めた。
「・・・ん。」
それからどれだけの時間が流れたのだろう。 ふと気付くと机にうつ伏せて、いつの間にか眠ってしまっていた。
(外から聞こえてくる運動部の掛け声って一定間隔だから、ずっと聞いてると眠くなってくるんだよな・・・。)
福原からの連絡はまだない。 どうやら生徒会の会議は、今も続いているようだ。 うっかり寝ていた間に逃してなくて、ちょっとホッと息を吐く。 そして勉強も再開させようとしたその時、
「ー・・・そこの問い、違ってますよ。錦くん。」
「え?」
彼はいつからここにいたのだろう。
「神崎・・・先生・・・っ。」
なんと隣の席に神崎先生がいて、そこから俺のノートを見ていたのだった。
(なんでここに!?)
「驚かせてしまってごめんなさい。自習室の前を通ったら誰かいる気配を感じて、見回りついでに入ったら錦くんが1人でいたのでつい・・・。」
「・・・・・・・・・。」
突然で。 いきなりで。 目を覚ましたら神崎先生が隣にいたから、本当にびっくりして、思わず肩を一瞬だけ竦めてしまう。
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