そのまま俺は及川に引っ張られながら、学校を後にする。 向かわされているのは、いつものバス停。 しかし早歩きで進んでいた足は、そこに着く前に途中で止まってしまう。
「・・・ごめんね、浬くん。浬くんにも見苦しいとこ見せちゃって。」
「あ、いや・・・。」
こういう時、彼になんて声を掛けていいのか。 正解が分からなくて、思わず言葉を詰まらせてしまう。 謝る必要だって何もないのに。
「・・・大丈、夫?春希くん。」
「ん?」
「あ、いや、その・・・。」
彼は続けて、俺にこう言った。
「・・・分かってたことだから。」
と。 まるでこの結果を、初めから何もかも分かっていたかのように。
「大丈夫、だよ。」
「春希くん・・・。」
「大丈夫・・・、大丈夫だから・・・・・・。ごめん。」
だからと言って、その結果が辛くないわけがない。 「大丈夫」を繰り返して、俺なんかに気遣って、静かに流れ落ちる彼の涙。 だけどそれを拭えるモノなど、俺を含めて、この場には誰もいない。 俺はそんな及川を、ただただ見ていることしか出来なかった。
「春希くん。大瀬くんのこと・・・、好きだったんだね。」
明日になったら、頼んでないフォロー入れていいから。 明日になったら、中身のない話をペラペラ語っていいから。 明日になったら、いつものバス停で。いなかったら待つから。 明日になったら、明日になったら・・・。 またいつもの彼に戻ってますように。 そう願わずにはいられなかった。
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