(ああ、何故こんなことになってしまったんだろう・・・。)
「俺の唇ここにあるから、チューぐらいちゃんとしてねタカシ先輩。」
「分かってるから!すぐしてヤるから、ちょっとは黙っとけ!」
時はちょっとだけ前に遡る。
受験シーズンも本格化に突入した真っ只中、志望していた公立大学の合格判定がまた上がり、希望の光が前よりもこの手に掴めそうな気がしてきた。 もちろんそれはオレ、斉藤 崇(さいとう たかし)一人だけの力ではない。 そう。それは何もかも、
「俺のおかげだよね。」
羽前 篝(うぜん かがり)、篝のおかげだ。 オレより一つ歳が下だが、さすが特待野郎。 高三で習う授業の範囲もオレが貸した教科書やテキスト類を見せた途端にあっという間に基礎を全部覚え応用に全て活かし、試しに大学受験対策用の問題集をやらせたところオレよりもはるかにいい正解率を叩き出したのだ。 そしてオレはそんな天才・かがりんの力を利用して教わり、自分の成績アップへと見事繋げることが出来た。
(年下を利用するのは少し心苦しいが、凡人が天才に教わるのは何も悪いことじゃないし、相手は篝だから大丈夫、何も問題ない。本当にオレは素晴らしい友だちを持ったものだ。)
とは言え、この時期は学校や図書館などの自習室は自分と同じ目的で勉強をしに来てるやつらでいっぱい。 帰宅途中に喫茶店へ寄って勉強するのも悪くないが、毎回やっていたらあっという間に小遣いが尽きてしまう。 だから、
「じゃあ今日も俺んちで勉強の続きやろっか?」
「変なことしたら、ソッコーで帰るからな。」
「タカシ先輩。もしかして逆に期待してたりー・・・?」
「するかバカ!変なことしたら絶対に帰るからな!そんなことしたら絶交だからな!破綻するからな!」
学校から篝の自宅のが近かったので、放課後は篝んちで勉強を教わることが多くなった。 そりゃあ奴の家にオレが上がると言うのは、色んな意味で危なっかしいが、奴をオレの家に上がらせるよりはマシ。オレのプライバシーまで把握されるよりはマシ。 そんなわけで今日も篝んちに上がり、リビングで勉強会開始。
「先輩、何か飲む?」
「自販機でお茶買ったから平気。何か変なもん入れられそうだからいらなーい。」
「だから先輩。それ言われると逆に期待されてる感じがするって。」
「してないって言ってんだろ!」
そしてオレはあれからも友だちとして篝と付き合っているが、篝はそうじゃない。襲ってこないのが幸いなだけで、オレに隙が生まれれば確実に狙ってくる。 今回の発端も、まさにそれだった。
「そういえば先輩って、俺以外に誰かとキスってしたことあるの?」
しかもその話題を勉強真っ最中にしてくる。
「ノーコメント。」
「だってそこは、やっぱりちゃんと知っておきたくない?俺と先輩が付き合っていく上で大事なことなんだし。」
「ノーコメント。」
「まあ、あるわけないよね。・・・タカシ先輩はどう考えても童貞「あるわ!チューぐらい!!」
逃げられるのなら無視してでも逃げたい。 けど篝が上手に挑発してオレの怒りを誘ってくるものだから、オレもバカみたいにお買い得に買ってしまう始末。
「それで先輩からのキスって、どんな感じなのか知りたいなあって思って。」
「その手に乗るか。そんなもの永遠に知らなくていいから、さっさとここの問い教えろよ。」
「ありゃ、やっぱり無理だったか残念。まあ、仕方ないよね。先輩はどう見ても童貞「してやるよ!すればいいんだろ!キ・・・チューぐらい!!」
そうして遡ってきた時間は今に至り、オレはまんまと篝にハメられる。
「なら今すぐしようか。さっさとしようか。先輩の気が変わらないうちに。」
「へ?」
リビングのソファーに寝転んだ篝は、ゼロ抵抗の仰向けた体制で『ヘイ、カマーン』と言わんばかりに、クイクイと右の人差し指でオレを誘う。
(ああ、何故こんなことになってしまったんだろう・・・。)
「俺の唇ここにあるから、チューぐらいちゃんとしてねタカシ先輩。」
「分かってるから!すぐしてヤるから、ちょっとは黙っとけ!」
童貞←このワードで挑発してくるのは卑怯です。
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