僕の幼馴染に、なまえという女子がいる。彼女は所謂盲目で、今でも時々手を貸してほしいと言われることがあった。 なまえは生まれつき目が見えなかったわけではない。中学校に上がって一年が経った頃、目が眩むと言って保健室に行った。休み時間を利用してなまえの見舞いに行くと、彼女は「少し休んだらよくなるよ」と笑っていたのに、そのまま教室に戻って来ることはこなかった。 明日になれば、きっといつものように登校して、携帯の使い過ぎで目が疲れたんだろう。少し控えたらどうだ。なんて、軽口を叩こうと思っていたのに。一日経っても二日経っても一週間経ってもなまえは学校に来なかった。電話をしてもメールをしても一切返事は来なかった。なまえと仲の良い女子に聞いても連絡が取れないと言う。 部活を終えて急ぎ足に向かったのはなまえの家。インターホンを鳴らすと中からエプロン姿の彼女の母が出てきた。なんとか頼み込んでなまえはどうしたのかと聞くと、彼女の母は悲しげに苦しげに教えてくれた。 なまえは今、入院していると。 翌日。また部活を終えて急いで病院へ向かった。受付に病室を聞いてなまえのもとへ急ぐ。病室も前にはしっかりとみょうじなまえ様と書かれていて、やはり彼女はここにいるのだと思い知る。スライド式のドアを開けるとベッドから体を起こして外を眺める彼女がいた。ドアの開く音にこちらを振り返る。 「征十郎?」 「なまえっ…」 僕だという事をぴたりと言い当てたのにもかかわらず、彼女の目は僕を映さず宙を彷徨った。 そんなのはきっと気のせいだと自分に言い聞かせベッド横の椅子に腰掛ける。やっぱり征十郎だ、とどこか嬉しそうにする。未だに、目は合わない。 「なまえ、まさか、目が…」 どうか、嘘であってくれと、そう願う。 「うん。見えなくなっちゃった」 「両目、とも…?」 「うん」 「治る見込みは、」 「無いって。もう少し早く気付いていたら治ったかも」 「……そう、か」 沈黙が続き、なまえが泣いてしまいそうなのを堪えるような震え声で口を開いた。 「ごめん、ね。わたし、もう征十郎のバスケしてるとこ、見れなくなっちゃった」 「僕の方こそ」 「なんで征十郎が謝るの」 「ずっと近くにいたのに気付いてやれなくて」 だから、泣くな。と。目が見えなくても君にできるとこがあると。無責任にそう言うことはできなかった。彼女が泣き止むまで隣に居ることしか僕にはできない。 赤司くんが無力を嘆くお話。 |