小ネタ | ナノ

黄瀬涼太という人間は、生まれながらになんでもそつなくこなすことができる才能を持ち合わせ、おまけに美形と呼ばれる顔も持っている。故に、美しいものが好きだった。
どれだけ神様に愛されたのか知らないけれど。勉強はそこそこでも顔が良くって運動ができたらモテるというのは強ち間違いでもなくて。実際、黄瀬涼太はモテた。死ぬほど。運動ができれば注目され、顔が良ければ女子達が黄色い悲鳴で騒ぐ。よくできた人生だった。
そんな彼にもようやく心に決めた一人の女の子ができる。名前をみょうじなまえといった。彼女を一言で言い表すなら上品でおしとやか。あれ、二言だ。ただ休み時間に読書をしているとかそんなんじゃなくて、他の女子達と普通に談笑したりして、なんで上品に見えるんだろうって、ずっとみょうじさんを黄瀬は観察してた。
そして、ようやく答えを見つけた。手、だ。彼女の手。指先。物を持つときとか、指先がすごく綺麗。指先というより手が綺麗。ハンドモデルができるのではないかというくらい白くてやわらかそうで、手首も白くて細かった。
モテる黄瀬が彼女に興味を持って遊び半分に告白して、みょうじさんは白い頬を桜色に染めて頷いた。晴れて二人は彼氏彼女。
みょうじさんは束縛なんてそんなことしないで、いつも三歩ほど後ろから黄瀬について来る理解のある彼女。一々人間関係に口出ししてこない彼女。困ったときは優しく助けてくれる彼女。
黄瀬君の彼女になれたんだから、頑張らないと。そうして、彼女は頑張っていた。だけど。

「ねえ、黄瀬君、今日一緒に帰れないかな? 制服デート、したいな」
「あー…ごめんね。 友達と約束しちゃったんスよ」
「…そっか」

気を落とす彼女は、黄瀬君には見えていない。何故なら彼は後ろを振り返らない人だから。そう割り切らないと、もたないの。

「ね、黄瀬君、」
「ごめんみょうじっち、後にしてくれる?」
「…あ、…うん」

そうして黄瀬は彼女の優しさに甘えて彼女との時間をないがしろにして、疎かにして、ついには一緒に出掛ける約束さえも忘れて。
ついに、限界が。

「黄瀬君は、…酷いよ。忙しいのは分かって…る、つもりだけど、全然、連絡もくれないし、……なんか、いつも後回しにされてるし、相手、してくれないし」

泣きそうな顔で彼女は初めて不満を口にした。驚くと同時に不満をぶつけられたことへの苛立ちや、束縛というものの煩わしさを思い出し、黄瀬は勢いに身を任せ口走った。

「じゃあ、別れるっスか? 俺、こう見えても忙しいんスよ。ずっと相手してやれるわけないし。暇なときには色々してやってんのに、不満とか言われてもって感じ」
「そんな、」
「あーあ、俺、みょうじさんはそんなことしない子だと思ってたのになー。マジ幻滅」
「…え、」

最後まで聞く必要もないと思って彼女も前から立ち去った。だって、これから、モデルの仕事があるんだ。時間を取られるわけにはいかないんだ。
そうだよ、大体、どうしてあんな子を好きになったんだろう。…違うだろ? 俺が彼女を好きだったのは、手、だけだろう?
そうだよ、だって、彼女の顔はぼんやりと曇りガラス越しに見ている様なのに、手だけはこんなにもはっきり思い出せる。
みょうじさんのどこが好きだったの? って聞かれたら、きっと、手が好きだったと答えるのだろう。所詮その程度だったのだ。


オチが無いので強制終了。

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