レモンスカッシュ | ナノ

放課後、最近では習慣になりつつあった部活に行く前の黄瀬君との短い会話を終えると、借りた本の返却日が今日だった事を思い出し図書室へと向かった。廊下を歩いている最中、背の高い、まいう棒をかじっている紫の髪の男子生徒とすれ違った。紫原敦。

「アラー? 花音ちんじゃん、こんな時間までいるなんて珍しいねぇ」
「本返しに行こうと思って。…紫原君、お菓子食べながら歩くのはお行儀悪いよ」
「これあげるから見逃してー」

彼から差し出されたまいう棒を受け取り見逃してしまう自分は本当に子供だ。お菓子につられるなんて。まいう棒をポケットに押し込み彼の所業を見逃した。「部活頑張って」と手を振り紫原君と別れ図書室へと向かう。時間が時間なので生徒たちは部活か家に帰ったかで図書室には人はいない。返却日がどうのとかを書き込んで、本棚に借りた本をもどそうと奥へと進むと、どこからか熱っぽい吐息と甘ったるい声が聞こえてきた。誰かいるのかと足を進めると男女が、いわゆるキスというものをしていた。見てはいけない瞬間を見てしまったと目を逸らそうとしたが、逆に私の目はその男の方に釘付けとなっていた。
さらさらと揺れる美しい金糸。

「……黄瀬君…?」

そこにいたのは紛れもなく黄瀬涼太。金髪や背の高さからいって間違えないだろう。

「う、そ」

やだやめて。わたしだって最近やっと話せるようになったのに。誰その子。嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。だって、黄瀬君は、だって。部活に行ったはずであそこにいるのはきっと、別人だ。きっと黄瀬君じゃない。違う違う、あれは黄瀬君じゃない。そうに決まってる。だって部活に行ってるのだからここにいるワケがない。そうだよね? わたし間違ってないよね? 黄瀬君、嘘だって、言ってよ。それにほら、背の高い金髪なんてこの学校にきっと他にも、い、る?
考えれば考えるほど墓穴を掘って、目の奥が熱くなるのを、胸がずきずきと音を立てて痛むのを知らないふりして、図書室から逃げ出した。

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