レモンスカッシュ | ナノ

花の匂い。指摘された時は柄にもなく焦った。いつもみたいにとぼけて見せて、黄瀬ちんから花音ちんのストラップを預かり、今日渡しに行く。彼女がずっと休んでいる理由なんてすぐに見当がついた。
――黄瀬ちんに会いたくない。それだけじゃない、嫌がらせにあっていたのは知っている。たった一日とはいえ、花音ちんには相当堪えた様だ。あんまりひどくて見ていられなかったから一緒にいて怪我しないように、外されても俺が傍にいてあげたりした。
何だかんだで彼女はもう、一週間も学校に来ていない。不登校になんて、させてたまるか。
赤ちんは俺と花音ちんが仲良いのを知っていて、その彼女が不登校気味という事も知っている。今日は無理言って休ませてもらって彼女に会いに行った。
きっと元気がないだろうから、お菓子をたくさん用意して、黄瀬ちんの事も少しは話してあげようかと思った。俺って優しいね。そんな浮かれ気分で彼女の家のインターホンを押す。少しの間を置き、ガチャリと扉が開いて案の定、目を真っ赤に泣き腫らした花音ちんが出てきて俺を見上げた。

「紫原君……? どうしたの? 学校、部活は?」
「いいのー。これ返しに来ただけだし」
「…あれ、なんで持ってるの? なくしたと思って、ずっと探してたのに」

あれだけ大事にしていたのになくすわけないだろう。彼女に見せつけて、受け取ろうとしたところで手の届かない、高いところに持ち上げる。片眉をピクリと動かしたが気にしない。

「花音ちんは知ってる? 藤の花全部切られたんだよ」
「え、切られた、って……? 病気だったから?」
「違う、花。全部切り落されたの。地面に落ちてるよ今も。誰だろうね? こんな酷いことしたの。因みにね、その藤の近くにこれが落ちてたんだ」
「……何が、言いたいの」
「ああ、勘違いしないで。花音ちんはそんなことしないって分かってるから。でもね、藤を見に休んでる最中、学校に来てたよね? 外見た時に花音ちんがいてさ」
「……! 見てたの」

完全に俺を警戒してしまった彼女に良い事教えてあげる、と耳に唇を寄せる。花音ちんをほったらかしにしているあいつの事を教えてやった。少し癪だが花音ちんを学校に連れ出すためには仕方がない。黄瀬ちんも心配してたよ。俺がそう言うと本当に嬉しそうに、花を咲かせたような笑顔をぱっと浮かべた。
もう少し、もう少しだ。明日にはきっと全て終わる。

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