藤を荒らした犯人のものと思われるストラップを拾って、じっと見ていた。俺はずっと持っていた。どうしても、どうしても思い出せないが、俺はこれをどこかで見たことがある気がする。どこで見た? どんなに記憶を辿ってもぼんやりとしか思い出せない自分が歯痒くてならない。 イライラしながら部活に行くため体育館に向かって歩いていると紫原っちと廊下であった。ふいに香った花のような甘い匂い。 「あれ? 紫原っち香水でもつけてるんスか?」 「つけてねーけど」 俺の右手にあるストラップを見た瞬間、いつも眠そうな目が少しばかり見開かれた。「黄瀬ちん、それ、」と指をさし怪訝そうな顔をする。 「落ちてたんスよ」 「これ花音ちんのだよ。無くしたって言ってたし。俺が返しとくからちょーだい」 「ちょっと待って、無くしたって『言ってた』? アンタ、藤枝さんと会ったんスか?」 「そんなんじゃねーし」 普通、彼女の落とし物を届けるのは彼氏の役割だろう。なんでお前取られなきゃなんねーんスか。それに、さっきから何か引っかかる。学校に来ていないにも関わらず紫原っちが会ったようなことを仄めかしている。荒らされた藤の近くで拾ったストラップ。それは藤枝さんの物だった。まさか、まさかあの子が……? 変な考えが頭をよぎり慌ててその考えを消し去った。藤が好きなあの子に限って、そんなことするはずがないと。同じ物を持っている人だって少なからずいるだろうと。だって、彼女はずっと休んでいるんだろう? 俺が姿を見ていないわけではなく、学校に来ていないんだ。もう、一週間も。 それなら紫原っちはストラップを届けるため彼女の家に行くのだろうか。 …尾行でもするか? 馬鹿馬鹿しい。ちょっと仲が良いというだけで家の場所まで知っているわけないだろ。大体、俺も知らねーってのに。 まあ、何でもいいさ。彼女に問いただせばいいのだから。学校を休んでいるくせに、一年も片思いをし続けた俺を差し置いて紫原っちと会っている理由を。紫原っちのいない時に。ついでにストラップと藤の事も聞き出そう。 *** 藤枝さんが花を。 俺が必死に否定しようとしたことはいつの間にか学校中に広まっていて、藤の花が落とされる少し前に彼女の姿を見たという話もあった。じゃあ、俺の知らないうちに彼女は学校に来ていて、理由は知らないが花を落として、その時に携帯ストラップも落として。そういう事になってしまうのか。 反論はできないはずだ。だってそんなの彼女がこっそり学校に来たっていう次の日に花が落ちていたんだから。 |