レモンスカッシュ | ナノ

学校に登校すると、藤の木が病気にかかったらしい。根や接ぎ木部分にこぶができ、徐々に生育が衰えていくのだと。治療法はなく、こぶのできたところを切り取るしかない。そんな話が耳に入った。枯れないでほしいと考えながら上履きに履き替えると何か、違和感。そして次第に痛みとなり靴底と靴下に赤い染みが広がっていく。靴の中を見てみると画鋲が入っていた。靴を片手に呆然としているとクスクスとした笑い声。それは紛れもなくわたしに向けれてていたもので。

「……っ、」

息を呑んだ。
ひとまずトイレに入って手当てをする。今までこんなことなかったのに。なんで、なんでなんでなんで。どうして。心当たりは……。考えて考えて、一つの答えに辿り着く。黄瀬君。わたしが黄瀬君に告白したから? だから画鋲を入れたの? でもそんな。告白した時だって誰もいなかったはず。今までだって付き合っているような素振りはわたしにだって見せてくれなかったのに。
朝からいやなことが続き重い足取りで階段を上る。教室に入ると一瞬だけざわつき、またいつも通りの賑やかなものへと戻った。一部を除いて。わたしをチラチラと見ながら、明らかに敵意のある目で睨みつけてくる。慣れないことに体を強張らせていると横から「おはよー」と紫原君。

「花音ちん、足どうかしたの?」
「え、えっと、なんでもないよ」
「ふーん?」

ドキリ、とした。紫原君に見抜かれたことを。絆創膏は張ったけれど、深く刺さってしまっていて歩くと痛い。周りから見ればなんてことない変化なのに、彼にはばれてしまった。
それからの一日、どれだけ辛かった事か。
隣に誰もいない帰り道、わたしはまた泣きそうになった。
朝の画鋲から始まり、無視、物を隠され、他のクラスの人もあたりが強い。携帯電話も隠されて、ようやく見つかったときにはお気に入りだった犬のストラップがなくなっていた。一番ひどかったのは廊下を歩いている時に足を引っかけられたことだ。
そのとき幸いにも紫原君がすぐ近くにいて転ぶことはなかったが彼には申し訳なくてたまらない。
黄瀬君とは近付けないし話せない連絡取れないし、学校ではこんな、嫌がらせ紛いなことばっかり。たった一日でって思うかもしれないけれど、思いの外、わたしは心が弱かった。
走って走って家まで帰って部屋に駆け込み扉を勢いよく閉める。扉に背を預け荒くなった呼吸を整えると、ずるずる崩れ落ちる。
なんでわたしばっかりこんな思いをしなくちゃいけないの。黄瀬君、会いたい、助けて、抱きしめて、一度でいいからわたしを好きと言って。お願い声が聞きたいの。

「黄瀬君……、」

相変わらず彼から連絡が無いのは、彼がわたしのこと。

「嫌いだから……?」

口に出して、また悲しくなる。こんな事なら黙っていればよかった。

「っふ、あは、あはは…バカみたい……」

もう、いいや。

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