ドルチェ | ナノ

…あ、しまった。弁当持ってくるの忘れた。せっかくお妙ちゃんが作ってくれたのに!

(お昼休みに急いで買いに行こうかな)

店の前をホウキで掃きながら欠伸をした。今は午前十一時。風もなく暖かい日だ。昼前とあってお客さんはいない。ぶっちゃけ、眠い。お腹減った。
だがその眠気はすぐに吹き飛んだ。

「琥珀ー!」

手を振りながら此方に駆けてくる神楽ちゃん。その後ろには新八君と銀さんもいる。

(なんかいいなー、皆でお出かけって)

にぎやかな家族のような光景に目を細めていると神楽ちゃんが私に向かって飛び付いてきた。

「わわっ」

なんとかバランスを保ち神楽ちゃんを支える。また銀さんが私から神楽ちゃんを引き剥がした。ブーブー文句を垂れる。

「ちょっと、そんなことしに来たわけじゃないでしょ!」

ずっと見ていた新八君が声を上げた。はい、と私に手渡された小さな包み。私はすぐに食いつく。

「おひるごはん!?」
「そうですよ、お弁当忘れて行っちゃたでしょう?」

わざわざ届けに来てくれたのか。店長にも休憩入っていいよー、と言われさっそく食べる。かぱ、とふたを開けると中にはまっくろくろすけが入っていた。

「え!? 姉上が作ったんですか?」
「なんだこれ」
「お妙ちゃんの料理かー嬉しいな。でもちょっと焦げちゃってるね」
「ちょっとどころか真っ黒じゃねーか!」

わたしが食べようとしたら銀さんと新八君は全力で止めてきた。食うな、絶対食うな! とそれはそれは必死に。だがお妙ちゃんがわたしのために作ってくれたのに食べないのは失礼だ。卵焼きを箸でつまみ口へ運ぶ。瞬間、銀さんはわたしの右腕を掴み奪うように卵焼きを食べた。新八君も神楽ちゃんも驚いて絶句している。
咀嚼をしているうちにだんだんと青ざめていく銀さん。そして倒れた。

「銀ちゃんよくやったアル」
「琥珀さんが食べていたらどうなっていたことか…」
「……」

お妙ちゃんの卵焼きは食べない様にしようと誓った一日だった。

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