ドルチェ | ナノ

今日は腰を痛めた店長に変わり、明日の準備をしていたが中々要領を得ず、終わるころにはもう日が暮れていた。

(く、暗い…!)

生憎、この辺りには街灯も明かりとなる建物もない。日が暮れたとなれば真っ暗になってしまう。一緒に帰ってくれる人もいないので仕方なく、暗い夜道を歩いた。五分ほど歩いた頃だろうか、誰かにつけられている気がする。コツ コツ、と。早歩きにしてみると後ろから聞こえる足音も速くなる。

(怖い…怖い…!)

振り向いて確認すればいいのだろうけど私にそんな勇気無いよ。ぎゅう…と震える自分の手を握り足を踏み出すとドン、と何かに正面からぶつかった。

「わっ…」

その何かは人だったようで、慌ててすいませんと謝ろうとしたらその人は私の名を呼んだ。

「あり? 琥珀ですかィ?」
「総悟?」

目を凝らして見るとぶつかったのは総悟だった。彼は夜の見回りをしているそうだ。めんどくさそうに言った。

「でも琥珀に会えたから良しとしまさァ」
「ん? 今なんて?」
「なんでもねーよ。…今帰りか?」
「うん、遅くなっちゃって」
「何お前、一緒に帰る奴いないの? ぼっちなの? 可哀そうな奴ですねィ」

言い返したいけど確かにぼっちではある。何も言えない代わりに精一杯総悟を睨むとハァーと溜息を吐き、

「じゃあ俺が家まで送ってやらァ」
「ホント!?」

いつもなら突っぱねるところだけど一人で帰るのは怖い。さっきの足音もあるし、暗いし。
総悟と二人並んで歩く。いつもは座ってお茶を飲んでいるから気付かなかったけど意外と背高いんだなーなんて思ったりしてると総悟がふいに――ぎゅっと。
わたしの手を握った。なに? と言う変わりにつながれた手をまじまじ見るとこうした方があったかいだろ、と。
わたしの手を引く形で歩く事になりちょっと恥ずかしい。

(誰かと手繋ぐのなんて何年ぶりだろ)

真選組が現れたからなのか、いつの間にか足音は聞こえなくなっていた。
なんだかんだ言いつつも送ってもらい、家に着くころには震えも止まっていた。玄関前でありがとうと言うと、少しだけ、照れ臭そうに
別にあんたのためじゃないとだけ言い残して仕事に戻って行った。
たまに遅くに帰るのも悪くない、かな。

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