青林檎の微熱 | ナノ

日直の仕事として、黒板を消すという作業がある。千夜の身長は平均よりやや小さめ。精一杯背伸びをすれば一番上まで何とか届くが足元がおぼつかない。よろよろしながら黒板を消していく。そんな千夜に小さな悲劇が襲う。届かない。あとたった数センチが届かない。友達はそれを見て大笑い。
笑ってないで手伝ってよ。と溜息をつきまた背伸びをする。友達の1人が見かねてクラスで一番背の高い火神を呼んだ。なんだよ、面倒くさそうに頭を掻きながら女子たちのところへ。

「アレ、手伝ってやってよ」
「は?」

彼女たちの視線の先には必死に背伸びをして黒板を消そうとしている千夜。吹き出しそうになる。笑いを堪えながら黒板消しを取り後ろからさっと消した。千夜は突然伸びてきた手に驚いて声を上げた。

「ぎゃっ…がみくん!」
「叫んだのをなかった事にしようとすんな」
「っち、違う、の。驚いただけで、」
「で、叫んだんだろ」

図星をつかれカアァとみるみる赤くなっていく千夜。次第に目も潤んで、泣きそうになった。それがまた恥ずかしくて手で顔を覆うと泣いたと勘違いをされ男子が騒ぎ立てた。火神が蓮見を泣かせたと。そんなバカなと焦りだす火神。千夜は赤くなった顔を見られたくないあまりに教卓の下に隠れた。友達の女子が教卓に駆け寄り何かを話している。どうやら言いたいことを代弁してもらうらしい。

「『火神君、手伝ってくれてありがとう。泣いてないから』だってさ」
「あ、ああ…」

火神が千夜を泣かせた事件は次の授業の予鈴によって幕を閉じる。その一部始終を黒子はじっと見ていた。

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