青林檎の微熱 | ナノ

蓮見千夜は男が苦手だ。それはもう、残念なほどに。話すことはおろか、廊下などですれ違うたびにビクビクしている。見るに堪えない。
千夜は今、自分のくじ運を呪っていた。席替え。朝のHRという予想もしないタイミングで席替えを始めると抜かした教師に怒りを覚える。隅っこの方の席になれたのは良い。問題は隣だ。男子バスケットボール部の、火神大我と言う名の巨人。がたがたと隣に彼が来た時には心臓が止まるかと思った。兎に角大きい、その一言に尽きた。ちら、と横目で盗み見ると特徴的な眉毛。眠そうにあくびを零す。

(大きい、なぁ…)

何がって、色々。座高から欠伸から手から。
HRを終え一時限目はなんだったかと、ボーっとしながら教科書を机に出した。何だか隣が騒がしい。

「……オイ!」
「ひぎゃっ」

隣の男の大声に恐怖を覚える。怖いからなるべく顔を見ない様になんですか、と聞けば教科書を忘れたから見せろと。
何の拷問だ。
火神は一番窓際の席で、隣には千夜しかおらず、仕方なく声をかけた。その結果がこのザマだ。分かりやすく挙動不審。断るわけにもいかず渋々机をくっつけ授業を受けた。いつもより何倍も長く感じ、教師の声は見事に頭に入らず。それもこれも火神大我のせいだ。
わたしの平和な時間を返せと顔を見上げてみると視線に気づかれ目があう。物凄い勢いで、首ごと逸らす。

(っし、死ぬかと思った…!)

心臓が変な音を立て、じわりと汗が出てくる。
一方の火神は初めて声をかける女子に全力で拒否られたような気がして珍しく沈んでいた。
俺が一体何をした、と。千夜は男が苦手と知るのはもう少し先のこと。

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