少女は焦る。心臓の音が他人にまで聞こえそうなほどばくばくと音を立てた。 隠れるか。いや、どこに。まともに動くこともできないのに。 彼女の脳内はこれほどかというほどの勢いで回り、かつ反比例して動かない体を持て余し、結局その場で硬直するだけだった。 「…ん? なんだ、目が覚めたのか」 「ヒエッ」 自分のものとは思いたくない情けない悲鳴に、家の主らしき人物は電気をつけた。 彼が見たものはビー玉のように真ん丸な、けれどどこか鋭さがある青い眼。じっと見ていると吸い込まれそうな感覚に陥る。彼女に着せたTシャツが妙な存在感を放っていた。 「え……っと、助けてくれて? ありがとうございます?」 「何故疑問形なんだ」 「あ、やっぱりあなたが助けてくれたんですね」 少女は布団から起き上がり頭を下げる。立ち上がらないところを見ると傷が痛むのだろう。薄い体を食いちぎらんとつけられた大きな歯形が手当てをしても痛々しい。 目が覚めたならさっさと家に帰そうと思っていた。実際そうした。敷布団を引っ張ると畳の上に転がり呻く。 なんてことするんですか! 抗議の声が上がるも知ったことか。それどころか彼女は傷が癒えるまでここに置いてほしいと頼んできた。青年は思う。年頃の娘がこうもやすやすと他人を、まして男を信じ家に居候させろというのはいかがなものかと。 「アオイといいます。そこを何とか」 「俺は音速のソニック。たしかに暗殺から用心棒まで請け負うが…今は好敵手を倒すため休業中だ。他をあたれ。と言うか帰れ」 少女のアオイにつられソニックも名乗る。首根っこを掴み玄関まで運ぶとバタバタと往生際悪く暴れ出て行こうとしない。 「せめて怪我が治るまででいいから! ここに置いてください」 「断る」 「鬼! ニート! 頭痛が痛いみたいな名前しやがって!」 「今すぐ追い出してやろうか!!」 |