さて、ただの気まぐれで見知らぬ女を持ち帰った彼、音速のソニックは頭を抱えていた。自身の傷の手当の経験から、処置は素早く的確にこなすことができた。あの怪人に噛み付かれたのか、出血の激しい腹部には大きな、歯形のような傷跡が刻まれていた。しかしこの女、衣類も体も血や埃でとても綺麗とは言い難い。このまま寝かせておくのは好ましくない。叩き起こして風呂にぶち込むか。 「おい」 布団に横たえた彼女の枕元に移動し声をかけるも反応はない。 「起きろ」 傷に障らないよう注意を払いつつ体を揺する。が、目覚める様子はなく、時折苦しそうに喘いでいた。その後しばらく声を大きく出してみても全く起きる気配はなくそれなら仕方がないことだと一体誰に言い訳をしているのかもわからないが濡らしたタオルを用意した。 さっきは手当てに集中していたから全く気にならなかったが、いかんせん年頃の娘の裸を見るというのも抵抗がある。いや、これは不可抗力だ。こんな汚い格好をしていては治るものも治らない。 ごくん、と生唾を飲み込み服に手をかけた。自分の持っているTシャツを着せ、彼女の着ていたものは血がべっとりと張り付き所々破れている。洗ってもどうしようもないな。捨てよう。 どうにも力加減がわからなかったがどうにかこうにか体に付いた血を拭き終える。傷の影響か、熱っぽく汗で額に貼り付いた前髪を払ってやると、その顔つきは幼く、女、ではなく少女かもしれない。 「…くそ、人の家でのんきに…」 さっさと起きてさっさと帰ってもらいたい。 なら何故拾って来たのだろう。そう、ただの気まぐれだ。弱々しくもこちらをじっと見据える深い青の瞳が頭をちらつき離れない。 彼女が目覚めたら治療費を払わせてやろうか。 *** ふわふわと揺れる。まるで波に遊ばれるように浮き上がったり、沈んだり。誰かに呼ばれたような気がして眠気に抗い瞼を持ち上げた。 白いものが一面に広がる。真ん中に照明器具があり、目を凝らすとシミが点々とある。そこが天井であると知った。部屋の中は薄暗く、カーテンの隙間から光がほのかに漏れていた。殺風景な部屋だった。どうやらもう夜になったらしい。 「……どこだ、ここ」 朧気な記憶を辿ると、自分はたしか路地裏まで誘導した怪人と闘っていたはず。お腹の辺りが痛むのは思い切り噛み付かれたからで、死にかけていたはず? あれ、なんで生きているんだ。そう言えば意識が飛ぶ前に誰かに会ったような気もする。その誰かが助けてくれたとでもいうのだろうか。それとも自分は死んだのだろうか。 「……まっさかー!」 HAHAHA! と意味の分からないテンション笑ってみた。これは熱っぽいからであって、いつもこんなわけではないのである。 上半身を起こし改めて自分の体を見てみると見慣れない服、胸元にはニンニンとプリントされた実に形容しがたいTシャツ。そのインパクトの強さに霞んでいたが傷は綺麗に手当てされいた。 立ち上がろうとすると頭が、体がズキズキと痛み布団に逆戻り。指先に力が入らない。これは単に傷のせいだけではなさそうだ。厄介なことになったと頭を抱えたくなる。 不意に聞こえた物音。開錠とドアの開く音、閉まる音。誰かが帰って来たらしい。 |