立ち上がり空を游ぐ | ナノ

長い黒髪を耳より高い位置で結い上げた青年は今日も今日とてライバルであるヒーローを倒すため、かの男を探して街を歩いていた。新技が完成しすぐにでも試してみたい。その足取りは軽かった。
ふいに鼻を掠めるこの臭い。思わず顔をしかめてしまう臭い。そこに気配を感じ細い路地に入ると女が1人、うつ伏せに転がっていた。

「……」

行き倒れか。自分には関係のないことだ。その女を跨いで歩みを進めると左足が何かに引っ張られるように動かなくなった。見ると倒れた女が顔も上げずに自分の足を掴んでいるではないか。

「ちょっとおにいさーん…行き倒れてる女の子をスルーなんて酷い」
「おい離せ、足を掴むな」

振り払おうにも無駄に強い力で掴まれて引き寄せられる。少し乱暴に振り払うとようやく顔を上げた。青白く血の気が無い。その割に助けろと搾り出すように悲痛な声を上げる。

「それだけ騒げりゃあ大丈夫だろう。じゃあな」
「待っ…」

ごふ、と一際大きく咳き込んだ後、足首を掴む手がぱたりと落ちた。
彼女の体をよく見てみるとおびただしい量の血がアスファルトを濡らしている。そうだ、この臭いは血の臭い。腹部からの出血が酷く命が尽きるのも時間の問題だった。彼女の近くには無残にも砕かれた剣の破片が散らばっている。どうみてもカタギの人間ではない。路地の奥には彼女が殺したと思われる怪人らしきものがすでに息絶えて転がっていた。
自分には関係ない。ほおっておけばいいだろう。
ろくに力も入らない体を起こし意味をなさない止血を始める女。その手は震えて力なく圧迫しているつもりなのだろうけど、それではまるで添えているだけだ。

だからこれ気の迷いだ。
捨て猫を餌付けするのと一緒で、慈悲や慈愛など無くて、ただの気まぐれ。今日は機嫌がいいんだ。
体力の限界に意識を手放した彼女の腕を自身の肩に回し連れて帰った。

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