ついったログ | ナノ
愛玩ロボの影山君。もう必要なくなったから、心苦しいけど、忘れるために初期化して捨ててきた。そのはずなのに。帰宅すると玄関に彼がじっと動きもしないで、電気もつけないで立っているの。おかしいなと思いながらまた翌日捨てたの。帰って来てるの。確かに初期化したのにわたしを覚えて、いる、の。


もうひとつ。及川さんと。


購入したセクサロイドに寿命が来たから捨てたんだ。初期化して電源を落として段ボールに詰めて。ゴミに出したんだ。家に帰ってももう一人で少しばかり寂しいなんて思っちゃって。電気のついていない玄関に入ると、あれ、何かいる。電気をつけるとそこには捨てたはずの彼がいた。


「おかえり」と確かに捨てた彼がいつもと変わらぬ笑顔で立っていた。あれおかしいな何で家にいるの捨てたのに寿命で動かないのに初期化したのにおかえりってなに? 何かの拍子に電源が入った? それで帰ってきた? でもリセットしたよデータは全部削除したよあれあれなんでおうちにかえってきてるの?

「だってお前が言ったんでしょー。忘れたの?酷いなぁ。ずっと一緒にいてねって。俺はその願いを叶えてあげてるだけなのに。捨てる?もういらない? 何言ってるのか分かんないや。だってプログラムされてないんだもん。俺はお前の愛玩ロボなんだからお前が愛してくれないと存在する理由がないんだよ」

「愛してる」と耳元で囁いて徹君はわたしを抱き締めた。もう一度リセットボタンを押そうとしたら、その手を掴まれ阻まれる。離しては、くれなくて。これは異常で、直ったのが嬉しいとかそんなことではなくて、ただの漠然とした恐怖感。バグが起きている。彼は本当に壊れてしまったのかもしれない。


だから怖くて、恐いからしっかり処分をしなくては。粗大ゴミに出した。塗料が剥げて帰ってきた。火葬場連れていった。表面を溶かして帰ってきた。スクラップ場に連れていった。潰れた右足を引きずって帰ってきた。人気のない山奥に不法投棄した。顔の半分と首と肩が抉れて帰ってきた。帰ってくる、の。

「ねぇ、ねぇ、俺はお前のこと好きなのにお前は俺のこと何度も何度も捨てるよね酷いよねこんなにも好きなのに俺にはお前だけなのにすキだよだいすき酷いこトさレても俺はお前が好きそウいう風に設定サれていルカらねどんなに捨てられたって愛シ続ケルよアイシてるヨ」

そう言った、彼は。


自分がもうとっくに壊れているなんて気付きもしないで、持ち主のためにと尽くすのです。ボロボロになって原形を止めず、それでも持ち主に尽くすのです。哀れで滑稽。なんて馬鹿馬鹿しいのでしょう。いらないと捨てられたことを認めず主人に迫る姿はまるで。大好きだったのに、大切だったのに。


「昨日、女性の間で話題となっているセクサロイドが持ち主である○○さんを暴行しました。製造ナンバーは――」
「他の機種にも起こりうるバグとのことで、製造販売元である××会社は自主回収を発表し――」


「セクサロイドが壊れて暴走、持ち主を襲ったらしいよ」
「へぇ、怖いね」
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