あの子がほしい | ナノ

子供の頃のゲームの一件以来、フェイタンはよくわたしからものを取るようになった。食べ物、ゲーム、服。必要最低限のものすらない流星街ではそれがどんなに苦しかったか。本当に困ったときは譲ってくれる優しさを持っているだけマシだけど。
そんなある日、二人で食べ物を探しに遠くまで出かけたことがあった。二日間、飲まず食わずで。遠くまで探しに歩いたものの食べられるものが全く見当たらず空腹に耐えながら住みかの廃バスへと戻る最中、フェイタンに腕を掴まれ止められた。

「アリシア、」
「ん? どうかした?」

俯いた彼の表情は見えない。無言で立ち尽くしているので心配になって顔を覗き込むと「腹減たよ」とか細い声で呟いた。
わたしよりも体力がありより行動範囲が広い彼はわたしよりも動き回ったのだから当然。何でもいいから食べ物が欲しい。とりあえずフェイタンに何か食べさせてあげないと倒れてしまう。せめて休めるところがあれば。辺りをきょろきょろと見回していると掴まれていた腕に力がこもった。

「お前美味そう」
「は?」

がぶり。
その言葉を理解するよりも速くフェイタンは有無を言わせずわたしの腕に食らいついた。腕をがっちりと掴まれ歯を突き立てられ皮膚に刺さりプシッと血が零れる。血ぃ! 血が! などと驚き慌てふためくと、ぱっと腕から口が離された。滴る血を綺麗に舐めとられくすぐったい。

「冗談ね、驚きすぎ」

ケタケタと力なく笑った彼に呆れた。わたしはただ驚いて痛みを感じただけだった。それでもフェイタンが元気なら、それでいいけど。なんて思うわたしは大概お人好しか。
それ以降フェイタンが時々噛み付いてくるようになったけれど、出血するほど強く噛んでくることがあるけれど。冗談だってわかっているから放置することにした。
痛いのは苦手だけど、悪意はあるけれど、冗談だって、わかっているから。

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