欲しいものは沢山ある。それらを手に入れる術は持っている。けれどわたしの手元にはない。読みたい本も、綺麗な宝石も、きらびやかな装飾品も、美しい絵画も、ない。何も無い。全てあの男に奪われたからだ。 ――なんて、シリアスっぽく言ってみたりもしたけれど。全てはあの男のせいだ。アイツが悪い。 「お前の物はワタシの物ね」 と、言い張る黒装束の拷問狂。こいつに全部、一つも残さず奪われたからだ。どんな剛田主義だよ今時流行らないよ。 剛田主義もといジャイアニズム。わたしがフェイタンに苦しめられてきたのは、残念ながら今に始まったことではない。思えば子供のころから盗られっぱなしだった気がする。いや、気がするのではなく盗られっぱなしだった。今になっても、返ってきたものは一つもない。かといって取り返そうなんて怖くてできないからだ。彼の鋭い眼光は慣れることができない。睨まれただけで震えあがってしまう。わたしこれでも幻影旅団のメンバーなのにな。 *** 今日は珍しく旅団メンバーが集まり仕事をしてその打ち上げをしている。わたしはマチやシズク達と談笑しながらお酒を飲んでいた。ビールを飲もうと缶に手を伸ばし開けようとプルタブに指をかけたとき、フェイタンが立ち上がった。彼と話していたフィンクスは急にどうした、と目を丸くしていた。もう寝るのかと気にも留めずにいると、彼は一直線にわたしに向かって歩いてくる。 え? え? と一人パニクっているとフィンクスは何かを察してニヤニヤとし出した。 「アリシア、」 「な、なにかな?」 フェイタンはわたしの隣にどかりと座った。何故だろう、何かとてつもない危機がわたしを襲っている。 「ビール飲みたいね」 「そっか、残念だったね。これがラスト一本だもんね」 「それよこすよ。ワタシがもらてやる」 「えっ、あっ!」 ほんの一瞬、わずかにわたしの目が泳いだのを見計らい、手から缶を抜き取られあっという間に飲み干された。ああー! と叫べばうるさいと拳が飛んできた。 「忘れたか? お前の物はワタシの物ね」 理不尽だとは思いませんか。 |