あの子がほしい | ナノ

イルミを追撃する鋲は弾かれても叩き落とされても止まらない。それを躱しながら攻撃を仕掛けてくるイルミは相当な使い手という事で。幻影旅団やっているとはいえわたしはフェイタンみたいに速くないし、ウヴォーみたいに力があるわけでもないので正直辛い。避けるのは何とかなるが攻撃に転じることができない。防戦一方。どうしたものか、いったん退くか。でも。

「うーん、君って面倒くさいね。弱そうに見えて避けるのだけは上手だし」

涼しい顔して鋲を避け続け、軽口を叩く。こんな挑発になんか乗らないんだから。日頃からフェイタンに色々言われてきたかいがあってか、わたしの沸点は高くなった。ここは退く。そう思い距離をとろうと後ろに跳んだ。扉までは約十メートル。イルミの攻撃をかわしながらあと七メートル。イルミが鋲を避けてあと三メートル。扉に手を伸ばしあと一メートル。
ドォン! と盛大な音を立てて扉はわたしたちのいる部屋の内側に吹っ飛んできた。なにごと。慌てて入り口から距離をとると扉を蹴破ったのはフェイタンだった。ポケットに手を突っ込んだまま上げていた足を地面につける。

「アリシア、まだ見つからないか?」

眉間に皺をよせ最高に不機嫌そうなフェイタンがわたしに問いかけた。その声色を聞いて不機嫌そう、ではなく本当に機嫌が悪いのだと知る。後ろにはイルミが、前には機嫌の悪いフェイタンが。なにこれ四面楚歌。わたしに残された逃げ道はなかった。
フェイタンがイルミの存在に気が付くと一瞬で状況を把握したのか館の主はもう死んだことを告げた。

「え、何。殺しちゃったの? まいったなー。依頼人が死んだ以上、君たちはターゲットじゃなくなる」
「…え?」
「じゃあね、アリシア。命拾いしたね」
「なっ、あっ」

言い返す暇もなくイルミは長い黒髪を揺らしながらフェイタンの横を通り過ぎて行った。イルミが見えなくなるとフェイタンはツカツカと足音を響かせながら歩み寄ってくる。目の前まで来ると不意に振り上げられた右手。反射的に目を瞑ると予期していた痛みはなく、代わりに頭の上に何かが。目を開けてみると彼の手がわたしに頭に乗っていた。

「弱すぎるよ、お前。そんなんじゃ簡単に殺されるね」
「返す言葉もごさいません…」

わたしは旅団では強い方ではないと自覚はしていたけど、こうもはっきり言われるとさすがにへこむ。久しぶりに四大行でもやろうかな。何故かって、そんなの、死にたくないってのもあるけどあなたの隣に立ちたいから。
よしっと頬を両手で叩いて薔薇の形の宝石探しを再開した。

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