フェイタンの痛い痛い視線をシカトして、わたしは半ばやけくそに話題を変えた。 「ね、髪濡れたままだと風邪引くよ。ドライヤーなかったの?」 「面倒」 「だめ」 フェイタンを椅子に座らせ、わたしは彼の真正面に立つ。首にかけていたタオルで軽く水分を拭い取る。時折眉間に皺を寄せながら目を閉じるところを見ると、髪が目に入ったらしい。「ごめんごめん」と何度か謝って洗面所からドライヤーを持ってきた。コードを伸ばしコンセントに差し込んだ。彼の後ろに回りドライヤーを構える。カチリ、スイッチを入れると音と共に温風が出てくる。暑くならないよう気を付けながら、丁寧に髪を梳きながら乾かしていった。 「気持ちいい?」 「…悪くはないよ」 「良かった」 櫛を使って彼の少し長い髪を梳くと気持ちよさそうに目を細めていた。なんだか猫みたいだ。 完全に乾き終えるとドライヤーの電源を落とし折りたたんだ。すると、彼はくるりと首を回し「ワタシもやてやる」とわたしの手からドライヤーを抜き取った。 「え、いいよ。まだお風呂入ってないし、自分でできる」 「じゃあささと入てこい」 ビシッと指を差され、思わず駆け足になりながらシャワールームに駆け込んだ。洗面台に手をついて深呼吸。フェイタンにドライヤーかけられる、ってこれはフェイタンのデレか。デレなのか。ついにフェイタンがわたしにデレたのか。フェイタンのデレに口元が緩んでいるとドアの向こうから怒号。 急いでシャワーを浴びて、着替えて部屋を出た。十分とかからなかっただろう。頑張ればできるものだ。彼を見ると、湯冷めしたのかいつもの黒装束を着ていて露出はほとんどなくなっていた。 待ってましたと言わんばかりにドライヤーを持ちスイッチオン。 「ここ、座れ」 さっき私が座らせたのと同じ椅子に座ると背後に回るフェイタン。暖かい風が頭に当たる。彼のことだから雑にされるとばかり思っていたけれど、優しい手つきに驚いた。細い指を髪に絡めて遊んでいる。しばらくの間彼に髪で遊ばれていると、乾いてしまった髪。柄にもなく、名残惜しいなんて思って。 「終わたよ」 電源を落とすと同時に頭にポンと手を置かれた。その手はとても温かった。 |