Clap




「…。」

 ガチャンっ

 ドアを閉める音が響いた。

 このドアの向こうには何があるのか。

 それは…。


 夕焼けの中の楽園で(after stoly)家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています


「ただいま。」

「…。」

 床に倒れている自分の妻に挨拶をした。

 その妻は赤い液体で体を濡らし、背中に包丁が突き刺さっていた。

 閻魔大王が見たら誰かに刺されたのかと勘違いをして気絶するかも知れない。

 ただ、肩をプルプルと震わせて必死に笑いをこらえているのが唯一のミスではあるが…。

 私は冷静に

「今日のは掃除が大変そうですね。」

と、笑うと妻はうつ伏せのまま満足そうにクククと笑っていた。

 最近の妻のマイブームは、私が帰ってくるころに死んだふりをして驚かせること。らしい。


 私たちは雑巾を取り出し、血のりを吹いた。

「血のりは後片付けが面倒だからやめましょうね。」

「はい。」

 珍しく聞き分けがよかった。いつもだったらいやだといって拒否しているところなのだが…。

こんな時は嫌な予感しかしない。

 ある日はビニール袋を被っていたり(息してるので思いっきり袋が伸縮している)昨日は軍服を着て銃を抱えたまま名誉の戦死を遂げていた。マンボウの着ぐるみが死んでたときはさすがにドアを閉めようかと思った。

 過去にそんな事があったためか、明日はどんな死にかたしているのか気になっていた。

 次の日…。

 ドアを開けてみると、壁に寄りかかって頭にはあれほどやめろといっておいた血のりが付いていた。そして、頭には矢が刺さっていた。

 妻の右手には血のりが付いていて、なぜか『さば』と書いてあった。一体、さばがダイイングメッセージとはどういうことなのだろう。

 掃除をしている最中になぜなのかと聞いてみると今日の晩御飯がサバの味噌煮だかららしい。たしかに、それは便利だと褒めると、調子に乗ったのか頭に矢が刺さったままサバをさばいていた。さすがにそれはまずいと思い、これからはできるだけスルーしようと心に決めた。


 ある時ふと、なぜこんなことを始めたのか気になった。妻にそのことを聞くと、

「頑張って気付いてくださいね。」

と、笑顔で言われた。一体どういうことなのだろう…。

 そういえば、最近の彼女は前より少し甘えん坊になっていた。それと何か関係があるのだろう。

 私が現世で生きていたころは彼女に会うだけで楽しかった。

 死後、千年彼女を待たしてしまった分、精一杯彼女と一緒にいた。視察をついて行ってもらい、海を見にいったりしていたのに…。

 閻魔大王の第一補佐官としての仕事もあり、多忙でもあったが充実した日々を過ごしていた。よく考えると家に一人私の帰りを待つ妻の気持ちをよく考えていなかった。

 家に帰ると妻が必ず死んだふりをしてるのはあの頃の二人に戻りたいからか私にはよく分からない。

 家に帰ってくる私を待ってる妻の演技を見ることが 私たち二人の愛の形ならばそれはそれでありだろう。そんな考えに至った。

 今日はどんな死に方をしているのかと、少し期待してドアを開ける。

 「ただいま。」

 次の週末には現世の海に連れて行こう。そう心に決めた。


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