目を覚ますと白い天井が目に入った。
独特の香りに包まれた室内と一定の間隔を刻む電子音で、僕は今病室にいるという事に気づいた。

ベットから起き上がろうとすると、頭に鈍い痛みが走る。



「(そうか、僕は…)」

あの後僕はジェネシスのキャプテンの必殺技を受けて―――

混乱したまま突っ込んで行ったんだっけ。



「また…迷惑かけちゃった…」


自嘲しながら1人呟く。
僕の心はもうボロボロで、孤独を恐れていた。


みんなにはアツヤが必要で
僕は必要とされてない。
日増しにその事実が明確になっていき、僕はプレッシャーに追い詰められていた。


いっそのこと士郎という"僕"を消して、アツヤに全てを委ねてしまおうか。


『士郎、余り深く考え過ぎんな
もう少し休んどけ』


アツヤの声が頭に響く。
彼なりに気遣ってくれてるのはわかっている。
けどどうしても必要とされてる彼に嫉妬してしまい、反抗してしまう。


「うるさい…君にはわかる訳ないよね
期待に応えられずに必要とされない僕の気持ちなんて!!」


アツヤの言葉にムキになって言い返す僕は、いつの間にか入ってきた人影に気づけなかった。





「可哀想に…そんなに追い詰められているなんて」


突然入ってきた第三者の声に驚き、ドアを見やる。


そこに居たのは、髪を下ろしていたがまさしくあのジェネシスのキャプテン"グラン"だった。
警戒心で体が硬直していく。


『アイツは昨日の…』


赤髪の彼はゆっくりとこちらに近づいてくる。


「吹雪士郎君だよね」


彼は僕の寝ているベットの側の椅子に座って薄く微笑む。


「昨日はごめん、痛かったよね…」


昨日戦った時とは全然違う、優しい声音で謝罪してくる彼。
まだ少し怖かったけれど、不思議と額を優しく撫でられるのに抵抗はなかった。


「ど…して、キミが…?」


敵である僕の所に、
(僕なんかの所に、)



僕の言葉に彼は一旦動きを止めたかと思うと、今度は優しく抱きしめてきた。


「キミが心配で来たんだよ、吹雪君」


昨日戦った後からずっと心配だったんだ、と告げる彼。


「僕が…心配で?」

「ああ、キミは雷門に必要な存在だろう?」

「違うよ、僕は必要じゃない…
僕はただのお荷物なんだ」

『っ士郎!』


無理矢理頭に響く声を押し込み、自虐的な言葉を述べる。
この時、僕の中のアツヤが制止に入るくらい、今の僕は相当感情的になっている事だけ理解できた。



感情を吐露すると、途端に目頭が熱くなり目を擦る。


すると彼は僕を優しく抱きしめた。


「辛かったね、吹雪君は今まで誰にも言えなかったんだね
…ねぇ、俺じゃキミを救えないかな?
敵とかそんな事よりも、今はキミを救いたいんだ」


その言葉に相手が倒すべき敵だという事も忘れ、抑え切れなかった涙が溢れた。

彼なら僕を理解してくれる
彼なら僕をこの苦しみから救ってくれる

…彼なら吹雪"士郎"を必要としてくれる



敵である彼の腕の中、僕はあの事故の日以来初めて人前で泣いた。



しばらくの間抱きしめながら彼は僕に問いかけてきた。


「吹雪君は明日チームに戻るの?」

「あ、うん…まともにサッカーできるかわからないけど」

「…またアツヤ君に代わって?」


その言葉に胸が痛くなる。
そう、いつもみたいに僕がアツヤに代わる…


「ねぇ吹雪君、俺のチームにおいでよ
俺のチームでサッカーしよう」


一瞬耳を疑った。
だって彼等と僕たちは敵同士で、そんな事できる訳がない。


「何言ってるの!?
無理に決まってるでしょ、だって僕は雷門の…」


雷門の…雷門にとって…僕は、

…"僕"は…?



反論したいのにこれ以上言葉が出ない。
絶対的な存在の豪炎寺君が帰って来た今、もう僕は雷門のみんなに必要とされない。


今更僕が抜けた所で、みんなには不都合ではないはず。



『ッ、士郎…!
止めろ、コイツの口車に乗るな!俺に代われ!』

「俺はキミをチームに入れたい
キミのもう1つの人格と代われと強制しない、自由にしてあげたいんだ」

『コイツ等が今までどんな非道い事をして来たか知ってるだろ!?
お前を良いように利用して、利用価値が無いと決めたら捨てられる!』



グランの声とアツヤの声とが交差し、僕の心は揺れ動く。



しかし次の一言で、僕の心は決まってしまった。


「…俺たちはキミが、吹雪士郎君が必要なんだ」



アツヤじゃない"僕"自身が必要。
僕がずっと求めていた言葉。



何故かアツヤの声が聞こえなくなったが、気にもとめずに話を続ける。



「必要としてくれるの…?
アツヤじゃなくて"僕"を見てくれるの?」

「ああ、吹雪士郎君だよ
キミは優しくてサッカーも上手い、きっとみんなと仲良くなれるさ」

「みんな…?」

「そう、家族みたいな俺の仲間」

「かぞ…く…」



かつての懐かしい記憶が蘇る。
お父さんとお母さん、それにアツヤ。
あの頃は人の暖かい温もりを感じる事ができたけど、今はもう二度と感じる事ができない。




「僕…家族の暖かさなんて忘れちゃった
僕も仲間になったら、また感じる事ができるのかな?」

「もちろんだよ」



彼、グランの言葉が僕を誘う。

彼等エイリア学園がやってきた数々の物事や事件を忘れるくらい、僕の思考は正常な判断ができなくなっていた。


人の温もりが、必要としてくれる人が、欲しい。



「僕、は……」





闇に堕ちるまで、あと少し。





――――――

グランの流星ブレードを食らった後、病院に運び込まれた辺りの妄想
こう…グランは言葉攻めとか精神面を攻めるのが得意そうだなと←

この後闇堕ちか救済かで続きとか書きたい…(予定は未定)