不動明王はイラついていた。

「ったくどいつもこいつも
浮かれやがって…」

激戦を勝ち進み、アジア地区代表になったイナズマジャパンは見事世界への切符を手に入れた。

そして韓国戦に勝利した今日、アジア地区代表祝いと世界への進出祝いという名目で打ち上げが行われている。

「つまんねぇ」

不動は小さく呟いて辺りを見回す。

合宿所の庭で行われているこの打ち上げは、沢山のご馳走と仲間の笑顔で溢れている。

確かに勝ち進めたのは嬉しい。
だが不動の性格上、感情を表に出さないのだ。
それ故に場の空気に馴染めない。

「(まぁ仲間と馴れ合いにここに来た訳でもねぇし、
俺のサッカーができればいいしな)」

ぐい、コップの中の水を飲み干すと、不動は独り宿舎内へと戻った。






庭の賑わいとは一転して静かな宿舎内。
自室へと繋がる廊下を歩いていると、小さく扉が閉まった音がした。

「(誰かいるのか?)」

自分には関係ないと無視しようとしたが、イナズマジャパンのメンバーは打ち上げの真っ最中であるはず。

疑問に思い、少し考えると音がした方へ足を進める。

「どうせ暇だしな」

時間潰しにと、不動は長い廊下を進んでいった。




辿り着いたのは扉に"吹雪"と掲げてある部屋の前。
部屋に人の気配を感じるし、多分吹雪本人なのだろう。

打ち上げとか好きそうな奴が参加しないのは珍しいな、と思いつつ部屋を後にしようと足を踏み出した時、

「…ふっ…く、うぇ…」

小さな嗚咽が不動の耳に入った。



この部屋にいるのは間違いなく吹雪である。
しかしいつもの吹雪ではない。

「(そういえばアイツ…足骨折したんだったな)」

今日の韓国戦での必殺タクティクス"パーフェクトゾーンプレス"に嵌ってしまった吹雪は、綱海と交錯し足を怪我した。
詳しくは知らないが、本人たちは苦痛に顔を歪めてたのを思い出す。

「(綱海だって打ち上げに参加してんのに、なんで吹雪は…)」

暫く思考に耽った後、不動は

ノックも無しに部屋へと入った。





目に映ったのは、ベッドの上で静かに泣いている吹雪の姿だった。

「あ…不動、君」

当の本人はいきなりの来客に戸惑っている。

「どうしたの…?」

必死に目を擦り、無理に笑みを作る吹雪。
そんな吹雪に呆れながら、不動は近くにあった椅子に座る。

「別に用はねぇよ
ただ近くを通ったら、聴こえたから見に来ただけだ」

ぶっきらぼうに答えると、吹雪は申し訳なさそうな顔でごめんね、と呟く。

「みっともない所見せちゃったね」

「まあ雪原の皇子が泣いてる所なんて滅多になさそうだな」

「うん、久しぶりに泣いたよ
不動君に見られるとは思わなかったな」

へへ、と笑みを浮かべる吹雪の姿は痛々しかった。

返答の言葉を探していると、吹雪からポツリと言葉が紡がれた。

「入院、するんだ」

涙ぐみながら、吹雪は続ける。

「せっかく、世界までもう少しだったのに
皆と、世界に、行きたかった…」
ダムが決壊したように涙が零れ落ち、シーツに丸い染みを作る。

「今日、の打ち上げだって、本当は行きたかった、よ
でも僕は一緒に、いけない」

そこまで言うと吹雪は枕に顔をうずめて泣き出す。

それを見た不動は思わず、吹雪の頭を撫でた。
普段では考えられないくらい、優しい手つきで。

「不動、く…」

「今は泣けばいいだろ
そしてまた帰ってくればいい」

吹雪はまるで小さな子供のように泣いた。
そして吹雪が落ち着くまで、不動はずっと側にいた。





どれくらいの時間が経っただろうか。

「ありがとう…不動君
僕、皆に追いつけるように頑張るよ」

そう言った吹雪は満面の笑みを零す。
その笑顔にドクン、と心臓が高鳴った気がした。

「…ッ貸し1つな」

「あはは、そうだね
何が欲しい?」

照れ隠しにと冗談を言ったつもりだったが、せっかくの吹雪からの申し出だ。
早速もらおうとするか。

「じゃあ…」

そう言っての唇と唇を合わせる。
触れるだけの、キス。

「ふぇ…?」

「ごっそさん」

何が起こったのか理解できてない吹雪に思わず吹き出す。

「ははッ!
結構可愛い反応するんだな」

「う、あ…
そ、それよりお腹空いたな!
不動君おぶって連れてってよ」

ナチュラルに話題を変えられたが気にしない

「食欲あったんだな…
まっいいぜ、連れてってやるよ

但し…」

そう言うと、吹雪をお姫様抱っこで移動させる不動。

「連れて行く方法はなんでもいいだろ?」

意地悪く笑う不動に、吹雪は顔を赤らめる。

「恥ずかしいよ!
というか重くないの?」

「お前くらいなら持てるだろ
軽いし」

「ちょっ、走らないで速い!」


その後打ち上げ会場となっている庭に、不動に抱っこされた吹雪が登場した時は皆、いつの間にか仲良くなっていた2人に驚きを隠せないでいた。




――――――

機嫌がいい明王と離脱前吹雪
ついったからのお題