独占する口実



最近、ようやく春らしくなった。
冬の寒さから考えれば生活しやすい季節。サッカー日和と言いたいところなんだけど…


「…暑い…」


今日は格段に暖かい。昨日が本来の春の暖かさなら、今日は梅雨入り前くらいの暑さだ。
北海道出身の僕には些か堪える。


「おーい吹雪ー!」


暖かさから暑さへと変わる基準は今日かな、とか考えていると名前を呼ばれた。
練習に集中してないのがバレたのかも。


「綱海君、」


「さっきからぼーっとしてっけど大丈夫か?」


「あ…うん、ちょっと暑いだけ…」


大丈夫だよ、と笑顔を見せると、綱海君は少し考えた素振りを見せ、


「…っちょっ、綱海君!?」


僕を強引に連れ出した。







着いたのはグラウンドの近くにある、大きな木の木陰だった。


「練習、抜けて来ちゃったね」

「今日は監督いねーし、円堂にも許可してもらったから心配すんな」


流石最年長、しっかりしてるなぁ。


「ここで少し休め、夏だけ熱中症になる訳でもないからな」


そう言って僕に座るよう促す。
せっかくだし、お言葉に甘えちゃおうかな。


「ありがとう、綱海君」


「いいっていいって!
ほら、遠慮しねーでこっち来いよ」


綱海君は芝生に寝っ転がると、僕を隣に寝るよう誘った。


「腕枕してやるぜ」


面倒見のいい綱海君は、ニカッと笑顔を見せて僕に腕枕をしてくれた。


腕枕してもらうのなんて初めてだったけど、綱海君のおかげで安心して、だんだん眠くなってきた。
今日は予想以上に体力を使ったらしい。


「ごめん…僕寝そう…」


「いいぜ、無理しないでもう寝ろよ」


優しい綱海君の声が心地よい。


「ありがと…綱海君…」


綱海君の優しい笑顔を見た後、僕は夢の世界へと落ちた。




吹雪が眠ったのを確認すると、綱海は広がる青空を見た。


「こういう時しか2人っきりになれねーのはキツいな…」


吹雪は皆に愛されている。
綱海含め吹雪に好意を寄せる輩は沢山いるのだ。


「いくら最年長の俺でも、あいつら相手じゃ骨が折れるな」


現在午前11時、ここがバレるのは何時か。
グラウンドからは見えないこの穴場も、吹雪を狙う彼らなら午後には見つかりそうだ。


「…見つかったらあいつら、どんな顔すんだか」


きっと怒りと嫉妬に塗れた視線を送って来るだろう。


「まぁそんなの、吹雪と2人っきりの時間が過ごせるんなら、大したことはねぇな」


とりあえず今は、左腕で眠る愛しい存在を独占することに決めた。