小説 | ナノ



 第二話












泊まる場所を探し初めてはや2時間。

一人だけ薄い恰好をしているし、キャリーバックというこの時代ないものを持っているから周りの人から不審な目で見られる。
どうしようもないので人通りが少ない道を選んで歩いてきたが、これからどうしたらいいか見当もつかない。



「(やばい…)」



現代ならまだしも、地球温暖化が進んでいない今の日本は寒い。
こんな中野宿して死にました…なんて、洒落にならない。












「ぎゃああああああっ!?」











悲鳴はその直後に響いた。




「、なに…?」




その後も続く悲鳴。
びちゃっと、病院でよく耳にする血の音。
数人の男の声も聞こえる。




「畜生やりやがったな!」

「くそ、なんで死なねぇんだよ!」




頭の中で警報が鳴り、逃げろ、と危険信号がでる。
しかし、自分は医者。
けが人がいるならば、助けなければいけない。
音のするほうへ近づき、覗き見る。

そこにいるのは、浅葱色の羽織りを身に纏った”奴ら”
”奴ら”が着ている羽織や持っている剣には、生々しい赤黒い血。
その血の主である浪人は地べたに倒れこみ、声を上げることもなく刀を体に受け入れている。

あの浪人は、もう助からない。
息をしていないのが此処からでも分かる。

逃げたほうがいい。
そう判断し後ずさりを始めると













カツン













びちゃっという不快な音の中に、それまではなかった音が響く。
音のした方を見てみると、一人の女の子がいた。

音がした同時に”奴ら”の動きが止まった。
赤色の瞳の視線が女の子に集まり、楽しそうに口角を上げる。

女の子は動けないらしく、座り込んでいる。
このままだとあの女の子も浪人と同じようになるだろう。

助ける義理もないが、なくなりかけている命を助けようとしてしまうのは医者の性。

”奴ら”に向かって回し蹴りをし、刀をはじく。
茫然としている隙にこめかみに拳を当てる。
他の”奴ら”にも適当な場所に拳を当て気絶させる。





「君、大丈夫?」




女の子に声をかけると、震えながらうなずいた。
大丈夫そうだし元の道に戻ろうとすると、何かが振り下ろされる気配を感じた。












―ガンッ









間一髪。
そこに落ちていた棒で攻撃を止めた。




「へー。君、僕の攻撃を防ぐなんてすごいね。」




この場に合わない陽気な声で笑う男に、女の子は怯えてか私の寝間着の裾を握った。
正直鬱陶しい。

視線を上に向けると、緑の瞳の男と、藍の瞳の男がいた。




「あいつらがこの子達を殺しちゃうまで黙って見てたのに、意味なかったかな?」

「さあな。…少なくとも、その判断は俺たちが下すべきものではない」




私はこの男たちを見たことがある。
もし、私が知っている通りなら…




「…運の無い奴だ」




予想通り紫の瞳の男が路地から現れる。




「いいか、逃げるなよ。背を向けば斬る」

「あれ?いいんですか、土方さん。この子達、さっきの見ちゃったんですよ?」




やっぱりそうだ。
私は、ただタイムスリップしたんじゃない。




「…いちいち余計なこと喋るんじゃねぇよ。
 下手な話を聞かせちまうと、始末せざるを得なくなるだろうが」

「この子達を生かしておいても、厄介な事にしかならないと思いますけどね。」

「とにかく殺せばいいってもんじゃねえだろ。…こいつらの処分は、帰ってから決める。」

「俺は副長の判断に賛成です。長く留まれば他の人間に見つかるかもしれない。」




カラコンでもしないとありえない緑の瞳。
現代ではあまりきかない副長という単語。
浅黄色の羽織…




「こうも血に狂うとは、実務に使える代物ではありませんね、」

「頭の痛ぇ話だ。まさか、ここまでひどいとはな。
 つーかおまえら、土方とか副長とか呼んでんじゃねえよ。伏せろ。」

「ええー?伏せるも何も、隊腹着てる時点でバレバレだと思いますけど。」




横で女の子の声が聞こえた。




「…余計な事は考えない、考えない。」



この女の子も、よく見れば見覚えがある。



「…死体の処理は如何様に?肉体的な異常は、特に現れていないようですが」

「羽織だけ脱がせとけ。後は、山崎君が何とかしてくれんだろ。」

「御意」

「隊士が斬り殺されてるなんて、僕たちにとっても一大事ですしね。」

「ま、後は俺らが黙ってりゃ、世間も納得してくれるだろうよ。」




此処はきっと、薄桜鬼の世界。
この女の子は雪村千鶴。



「ねぇ、ところでさ。助けてあげたのに、お礼のひとつもないの?」

「…あの、ありがとうございました。
 お礼を言うのが遅くなってすみません。色々あって、混乱していたもので」



藍の瞳の男、齋藤は衝撃を受けたように目を見開き、紫の瞳の男、土方は苦虫を噛み潰したような顔をしている。




「私も場違いかなとは思いましたよ?でも、この人がお礼を言えって…」

「あ、ごめん。そうだよね、僕が言ったんだもんね。
 どう致しまして。僕は沖田総司と言います。礼儀正しい子は嫌いじゃないよ?」

「ご丁寧に、どうも…」

「…わざわざ自己紹介してんじゃねぇよ。」

「副長、お気持ちはわかりますが、まず移動を。」



齋藤の声で雪村は沖田に、私は斉藤に手首をつかまれる。




「己のために最悪を想定しておけ。…さして良いようには転ばない。」









仲のいいナースに貸してもらい、いつの間にか全員クリアしていたあのゲーム、薄桜鬼。
私は時代だけでなく、次元までトリップしてしまったようだ。

…今日も夜勤の予定だったんだけどな。





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