第二十二話 「それで…山南さんは…?」 「相当な深手だと手紙に書いてあるが、傷は左腕との事だ。剣を握るのは難しいが命に別状はないらしい。」 「良かった…!」 「何が良かったんですか?」 井上の言葉を聞き喜びの声を上げる雪村に、香崎の冷たい声がかけられた。 「片手で剣を握って、もしそこに浪士が現れたら? 持つことがやっとで振るうことすら出来ないかもしれない。 仮にも小刀を腰につけているのに、そんなことも分からないの?」 「で、でもっ命があれば、みなさんだって嬉しいでしょう!?」 雪村は幹部たちに目を向けるが、全員が複雑そうな顔をして目をそらす。 そんな姿に違和感を抱いているといきなり香崎が立ち上がった。 「確かに仲間が生きていれば嬉しいでしょう。 でも、彼らは剣を持てなくなることへの恐怖を知っている。 貴方とは…違う。」 「……雅ちゃん?どこへ行くの?」 「医務室へ。黙って待つなんて出来ませんから。」 −ガッ 「(あれはただの八つ当たりだ…未来が変わることを恐れて、それを理由にして、結局何もできなかった。 私に彼女を責める資格はない。)」 壁を殴る音と共に壁にもたれ座り込む。 「(考えろ。この時代でも可能な治療法を。私に、出来ることを。)」 「(なんて言っても、まだ未来を変える勇気はない。 本当に私は…)弱い。」 暗い医務室の中、本を捲ったときの紙と紙がこすれる音や道具同士があたった金属音が朝まで響いた。 |