第十五話 とんとん 「香崎です。」 2回戸を叩き、返事を待つ。 「入れ。」 「失礼します。」 許しを得てから部屋の中に入ると書類と向き合っている副長の姿があった。 「んで、どうした?」 手を動かしながら質問をしてくるため、きっと忙しいのだろう。 タイミングが悪かったみたいだが、まぁいいや。 「まとめたいことがあるので隊士の名簿を貸していただきたいのてすが。」 「…それは必要なものなんだな? ならいい。そこの右から2番目の棚に入っているから持っていけ。」 すぐに貸してもらえないだろうと思っていたのに、拍子抜けだ。 忙しいからなのか。 それにしてもこんなに簡単に貸しちゃいけないだろう。 変なところで抜けてるな。 「ではお借りします。 終わり次第すぐに返しますので。」 「ああ。」 医務室に戻ってカルテを作る。 英語やカタカナを使えないって、思った以上に不便だ。 半分くらい書いたところで戸が開いた。 「失礼します…何をしておられるのですか?」 「隊士たちの健康状態を管理したいので、カルテという診断書のようなものを書いていました。」 見ますか? と差し出すと真剣な表情で食い入るように見始めた。 もっと綺麗な字で書けばよかったなんて、少し後悔したりしなかったり。 「西洋ではこんなものを書くんですね… 先生、この紙や、その筆は未来のものですか?」 「はい。とても破れにくく書きやすいんですよ。」 本当に山崎は勉強熱心だ。 こんな人には自分が知っていることを全て教えてビシバシ鍛えたくなる。 前の世界では鍛える前に逃げていく人ばかりだったけど、もしかしたら…って期待しちゃう。 まぁ、年上の人に対して何言ってるんだって話だけど。 「そうだ。何かありましたか?」 「…あ、夕餉なので広間に来てほしいとのことです。」 「もうそんな時間ですか…じゃあ、行きましょうか。」 部屋から出て山崎と廊下を歩いていると、場に不釣り合いなピンクの袴が目に入った。 「…雪村くん、何をしているんだ?」 「や、山崎さんっあの、厠へ行っていました。」 少し恥ずかしそうに目をそらすと私と目があい、眉を顰める雪村。 「山崎さんはどうなさったんですか? …香崎さんも…あまり出歩かない方がいいと思いますけど。」 「今から広間で夕餉を取りに行く。 香崎先生は行動を制限されているわけではないからな。」 「えっ…わ、私は…?」 「君はいつも通り部屋で食べろ。 後で誰かしら持っていくだろう。」 失礼、と言う山崎の声を聞き、再び足を進める。 そして後ろから向けられる殺気にため息を一つはく。 …お腹すいたなぁ。 ********** 夕餉(ゆうげ) 夕飯のことです。 |