第十四話 「ーーということで、香崎雅を新撰組専属医師とする。」 「ご紹介に与りました香崎雅です。 慣れない点も多くご迷惑をかけてしまうこともあるかと思いますがよろしくお願いいたします。」 「細腕で甘そうに見えるが、怒らせると怖いから気を付けろよ。」 はいっと、大きな返事が響く。しかしその顔には戸惑いを浮かべている。 無難な挨拶をして終わらせようと思っていたのに…副長の余計な一言で台無しだ。 「じゃあ、今日も頑張ってくれ!」 局長の言葉でその場は解散となったため、私は絡まれる前に医務室へ向かう。 「…やるか。」 意気込んでみたものの、それからしばらくたっても患者はこない。 怪我人がいないことは喜ばしいことなのだが、大学病院で休む暇もなく患者と向き合っていたころに慣れてしまったため仕事をしている気がしない。 …まぁ、今日来たばかりの、副長に怖いと言われた医者のもとに来たがる人は少ないからしょうがないか。 ぼーとしているのは時間がもったいないし、何かしようと立ち上がる。 大学病院と比べて必要なものを探しながら周りを見渡す。 「あ、カルテが欲しいな。」 持病はあるか、今までどんな怪我をしたかなど、分かればいざというときもスムーズにできる。 幸いにもルーズリーフとペンを持ってきている。 よし、そうと決まれば善は急げ。 隊士の名簿を借りに行くか。 医務室をでて歩きだしてから数分後。 …今更だけど、私此所の地理まったく分からないんだった。 どうしようか悩んでいると、少し高い男の子の声がした。 「あの…どうしたんですか?」 「お恥ずかしい話なのですが、副長の部屋が分からなくて…」 苦笑して言うと、若々しい笑顔を浮かべながら案内役をかってでてくれた。 「ありがとうございます。えっと、」 「あ、申し遅れました!僕、楠小十郎と言います。」 ぱっちりした目に白い肌。そして若いながらちゃんと敬語もできている。うん…いい子だ。 「楠くん、時間は大丈夫なんですか?」 「はい、今日は巡察もないので。」 なんて世間話をしていたらあっという間に目的地についた。 「もうついちゃいましたね。」 「えぇ…ありがとうございました。」 「いえ!また何かあったら気軽に声をかけてください。」 それじゃあ、と一度頭を下げると戻っていった。 若々しさがあふれでてるな…なんて言っても、2、3歳くらいしか変わらないと思うけど。 |